社説(2008年7月26日朝刊)
[救急ヘリ運休]
再開へ知恵を絞りたい
救えるはずの命が救えない。住む場所によって命に軽重があってはならないのは言うまでもない。だが、命の格差が生まれかねない現実が県内で出ている。
「救急ヘリ」(ドクターヘリ)を運航していたNPO法人「MESHサポート」設立準備委員会が、継続的に運航するのに必要な資金が確保できないとして一時運休を決めた問題である。MESHはヘリによる医療救援サービスの英文の頭文字を略したものだ。
北部の市町村にとって救急ヘリは文字通り「命綱」といっていい。都会と違い、病院が少ない上に、遠い。
なぜ運休に追い込まれたか。一言でいえば資金難だ。
機体の賃貸やパイロットの確保で、維持費は年間約八千万円かかる。国や県、市町村からの補助は一切なく、純粋に民間ベースの取り組みである。
事業をスタートさせた北部地区医師会病院が財政難にもかかわらず、二年間の救急ヘリの試行に踏み切ったのは、「救える命を救いたい」という医療従事者としての使命感からといっても過言でないだろう。財政的裏付けが十分でなく、北部地区医師会病院から引き継いだMESHサポートの運休はある程度予想されたことではあった。
伊平屋、伊是名、伊江の三離島村を含む北部十二市町村をカバーしている。(1)心臓停止後約三分で50%死亡(2)呼吸停止後約十分で50%死亡(3)多量出血後三十分で50%死亡―というデータがある。医療過疎の地域では、一分一秒が救命に直結する。
命の格差を認めてはならない。そのため私たちも手をこまぬいてはならない。できることから始め、再開につなげたい。
MESHサポートは、すでにスイスの航空救助隊をモデルに個人千円、企業十二万円の会員を募っている。
二十五日現在、会員数は約千人、総額約八百万円が寄せられている。
再開するには、もっともっと個人・企業会員を増やさなければならない。
もう一つ、具体的に提言したいのは、会員を増やすと同時に、「ふるさと納税」制度を利用できないかということだ。
国内各地でそれぞれの出身者によるふるさとへの寄付が徐々に目立つようになってきた。
その一部を市町村が補助金として救急ヘリの運営資金に回せないものか。
救急ヘリを利用する人で北部以外の中・南部、観光客らの「疾病者」が三割近く上るという。北部だけの問題ではないということだ。
もちろん、国、県、市町村の支援も欠かせない。県は国のドクターヘリ導入の実施主体を浦添総合病院とする方針を固めているが、それだけでは北部への対応が手薄になるのは目に見えている。
厚生労働省には、画一的な基準をあらためて地域の実情にあった柔軟な適用を求めたい。過疎地や離島を多く抱える沖縄の事情を考慮すれば、二機体制によるすみ分けを図るのが現実的だ。
|