◎ネジール君再来日 コソボとの交流の懸け橋に
今年二月、セルビアからの独立を宣言したコソボ共和国から、「小さな大使」がやって
来る。九年前、目のがんの治療のため、コソボ紛争を逃れて来日し、金大附属病院で手術を受けたアルバニア系男児ネジール・シニック君(12)のことである。
一九九四年夏、アルバニア人留学生がジャパンテントに参加した縁で、金沢を拠点とし
た日本・アルバニア協会が設立され、九九年に金大附属病院がネジール君の治療を受け入れた。当時わずか三歳だった。小さな子どもには酷な病気だったから、手術に際して「ネジール君を支える会」がつくられ、多くの県民の善意と励ましが寄せられた。手術後の容態を連日のように伝える本紙の報道に一喜一憂したことを覚えている人も多いのではないか。
無事手術が成功し、右目に義眼を入れて祖国に帰ったネジール君は、元気に暮らしてい
た。今年の冬、久しぶりに本紙に寄せたメッセージには、すっかり少年らしく成長したネジール君の写真が添えられていたが、文面には息が詰まるような一節もあった。体の成長につれて義眼が小さくなり、遊んでいるうちにポロリと落ちてしまう。それが原因で、いじめられることもあるという。本人はもとより、親もいたたまれぬ思いだろう。
再び金沢で治療を受けたいというネジール君の願いは、関係者の支援でかなうことにな
った。私たちも何とか手助けができないかと、紙面を通じて訴えたが、意外に早く来日が実現することをうれしく思う。金大附属病院で必要かつ十分な治療を受け、成長した体にふさわしい義眼を入れ直してほしい。そして十二歳の男の子にふさわしい笑顔と「心の眼」を取り戻してほしいと思う。
コソボは西欧とイスラム勢力がせめぎ合う、かつての「バルカンの火薬庫」のほぼ真ん
中にある。コソボ独立を承認した国は、日本、米国、イギリス、フランスなど約五十カ国に過ぎず、ロシアや中国は独立を承認していない。欧州で最も貧しく、政情不安な地域である。そんな国から来るネジール君が石川とコソボの交流の懸け橋となることを期待したい。
◎堀江被告に実刑 社会的影響を思えば当然
ライブドア粉飾決算事件で、元社長の堀江貴文被告を実刑とした東京高裁判決は、一審
に続き、法の抜け道を探って投資家を欺く不正を厳しく指弾したものであり、事件の社会的影響の大きさを思えば当然の司法判断と言える。
ライブドア事件以降、投資家が疑心暗鬼に陥ったこともあって、新興市場の勢いが減退
し、足踏み状態が続く日本経済に暗い影を投げかけている。今回の判決を受けて、企業側は、正しい情報公開による市場の信頼確保に重い責任を持つことを、いま一度肝に銘じてほしい。
判決では、最大の焦点となった投資事業組合(ファンド)を介した自社株売却益の売り
上げ計上について違法とし「実態の不透明なファンドを作り、監査法人や会計士も巻き込んだ巧妙で悪質な犯行」と批判した。
従来の粉飾決算は、経営陣が経営危機を回避するための「損失の隠ぺい」に用いられる
ケースが大半であったが、堀江被告は、株価をつり上げ、高い成長を装いながら投資家をだます「マネーゲーム」の手法として積極的に使ったという意味で、一段と悪質なケースであろう。
堀江被告は、冗舌に持論をまくし立てた一審とは打って変わって、控訴審では欠席を続
け、心境をつづった上申書のみが本人の「声」であったが、誠実さを疑われるような対応と言われても仕方があるまい。
判決が「犯行への反省はうかがわれない」と指摘し、一審を踏襲して「規範意識は薄弱
で、潔さに欠ける」と断じたのも、もっともであろう。
事件以来、市場を舞台とした犯罪への厳罰化の流れが加速し、金融当局などは監視を強
化している。弁護側は即日、最高裁に上告したが、IT業界の寵児としてホリエモン現象を生んだ“主役”への厳しい司法判断は、利益の追求のみならず、法令順守の徹底と反社会的行為の追放、健全な地域社会づくりへの貢献といった企業が持つべき倫理観をあらためて示している。