阪本順治監督=郭允撮影
タイでの幼児虐待・売買を描く阪本順治監督「闇の子供たち」が8月2日から、東京・渋谷のシネマライズなどで公開される。タイ社会の闇をえぐるだけでなく、「買う」側の日本人の恥部も暴こうとした作品。「安全な場所に身を置いて世の中を撃つことはできない。子供たちの痛みを背負う覚悟だった」と話す阪本監督は、タイでの“越境”撮影を試みている。
梁石日の同名小説が原作。タイで生体臓器移植を受ける日本人の子がいた。日本の新聞社のバンコク支局記者・南部浩行(江口洋介)は、臓器提供者のタイの少女が、貧困に苦しむ親に闇組織へ売られていたことを知る。日本で福祉を学んだ音羽恵子(宮崎あおい)らと幼児売買の調査を始めるが、闇組織と有力者との癒着、貧困問題などの壁に突き当たる。
「どこまでが創作で、どこからが事実か」。阪本監督は幼児性愛や虐待の実態を資料で調べた。足かせをはめられた少女の写真を見て衝撃を受け、現地のジャーナリストやNGOにも話を聞いた。「虐待や売買は摘発で地下に潜った。子供たちを救わねばと思いつつ、映画で何ができるのかと、無力を感じ続けた」
思わず目を覆いたくなるシーンがある。命からがら帰郷した少女が、身内らにバイ菌扱いされ、死後、炎を上げて焼かれる設定の場面。「表現を部分的にオフにするとか、『事後』だけ映すやり方は一切したくなかった」。一方で、少年が暴力的な性交を強要される場面は、「撮影そのものが虐待になってはならない」と犯す役の大人と別々に撮影して配慮した。「同情を買うためだけではなく、大人を見返す目の力を映したかった」からでもあった。
金大中氏拉致事件を映した「KT」での韓国入りに続く“越境”。韓国人から「日本人に撮ってほしくない」「不愉快だ」と言われた。タイでも「買うヤツがいるから売るヤツがいる。セックスツアーに来る日本人はお断りだ」との悪名を耳にした。劇中、日本人男性がスーツケースの中に少女を隠して宿に運び、撮影した写真をネットに載せる姿が描かれる。
悲惨な実態をドキュメンタリーで突きつける手もあったのでは?「現場に潜入して盗み撮りをする方法もあるだろう。だが、作り手として何をあからさまにするのかを明確にすることを選んだ」
カメラは、人に対して向ける一種の武器。それを異国の人々に向ける。国境を越えると、撮る、撮られる側とも緊張する。そうして向きあいながら、困難な現実を置き去りにする形で帰国する。「どれだけ子供たちと痛みを共有できたのか。タイ人の心を通過しただけと言える自分たちに、他国の闇をさらけ出す資格があるのか。そう問い返される背負い方をしたかった」
血なまぐさく、暴力に満ちた作品を撮ってきた。「怒りや逆恨み、一つ間違えれば殺意につながるような衝動……。今の時代を作家として表現するなら、内にため込んだ暴力というジャンルから迫ることになる」と話した。(宮崎陽介)