狂牛病より怖い「デモ熱病」がついに保守系メディア攻撃に発展=黒田勝弘
2008年7月22日 SAPIO
韓国を揺るがせている米国産輸入牛肉をめぐる反政府デモは、テレビとネットの扇動で始まった。韓国のメディアは日本のように「牛海綿状脳症=BSE」などといった、わけの分からない(?)表現は使わない。ずばり「狂牛病」といっている。そして「米国産牛肉を食べると狂牛病になる」という。米国にさえまだ"狂牛病患者"はいないというのに、韓国だけが国を挙げて騒いでいるのだが、その背景には「韓国人は狂牛病にかかりやすい体質」などという扇動情報も影響している。
"牛肉反米"で連日連夜、ソウルの都心を埋める熱病のようなロウソクデモに、保守派のネットには「もう狂牛病にかかっている!」と皮肉っているが、ネット王国の韓国社会はネットの扇動情報に弱い。左派・親北勢力は精力的にこれに便乗しているが、今回はテレビの扇動がことのほか目立つ。
とくに韓国テレビ界を代表する二大ネットワークのKBS、MBCがひどい。
まず今回の"狂牛病騒ぎ"はMBCテレビが火を付けた。米国の動物保護団体が制作した、放置された病気の牛(狂牛病とは無関係!)がヨタヨタする姿や、倒れたりする映像を流し「こんな牛の肉を食べさせられるのだぞ!」といわんばかりに"恐怖"をあおった。
ロウソクデモになると毎時間、各種番組でこれをほめたたえる一方、デモ規制にあたる警備当局や政府に対しては非難し続けた。デモがポリスラインを突破し大統領官邸に押しかけようとして機動隊に阻止されると「過剰警備だ!」とキャンペーン。デモ側が警備側に押し倒される"被害場面"ばかり繰り返し放送する。
そればかりではない。デモに比較的冷たい保守系の三大紙、朝鮮日報・中央日報・東亜日報─通称「朝中東」に対する非難キャンペーンまで始めた。メディア批評番組などを通じ、デモの人びとが「朝中東」に対しいかに不満が強いかを強調し「偏向報道」として叩いている。
と同時に、今度はデモに同調する左派で反政府系(前政権時代は親政府系)のハンギョレ新聞と京郷新聞の人気が高く、購読者が急増しているなどとやる。さらに「朝中東」に広告を出している企業に対し"市民"の抗議と圧力が広がり、企業に広告見送りの動きが出ていると長々と紹介する。
二大テレビが歩調を合わせ、特定の新聞を非難し、読むなといい、さらに特定の新聞についてはほめ上げて、購読しろといっているようなものだ。こんなことはおそらく世界のテレビ史上、初めてのことではないか。 「朝中東」はまだ圧倒的なシェアを占めているが、歩調を合わせた巨大テレビには勝てない。韓国社会はこんなテレビの横暴、電波の私物化にブレーキがかけられなくなっている。
今、手元にメディア労組で作る「全国言論労働組合」の機関紙「メディア今日」最新号がある。全16ページの立派な新聞だが、その1面トップの見出しは「ロウソクデモ"反・朝中東"運動に拡大/言論消費者運動に転機、京郷・ハンギョレを応援、保守紙の広告主を圧迫」とある。 事態を憂慮しているのではない。喜び、あおっているのだ。これが韓国マスコミ労組の実態だが、この「メディア今日」はデモ現場で大量に配られていた。
このように政権は代わってもマスコミをはじめ「左派・革新・親北」勢力は依然、強力なのだ。これが過去10年の親北・左派・革新政権の"成果"だ。いわゆる韓国民主化の結果である。この"抵抗勢力"は根強い。牛肉反米ロウソクデモの高揚はそのパワーを物語っている。
そこで李明博・保守政権はまずテレビの偏向是正、つまり"正常化"を目指し、準国営ともいうべきKBSの鄭淵珠社長に退陣を迫っているが、居座られたままだ。鄭社長は盧武鉉前政権下で親北・反米の論調で知られたハンギョレ新聞論説委員長から起用された人物。保守派からは「偏向KBSのシンボル」とみなされてきた。
韓国での左右・保革・親北反北……の戦いは今やメディアの戦いだ。李政権の命運もこの戦いにかかっている。(産経新聞ソウル支局長)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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