岐阜県の山間部にある小学校の学校医は、健康診断で必ず児童に言わせていることがある。「私の好きなのは○○です」。生活状況がよく分かるので3年前から続けている。低学年では食べ物やペット、妹弟の名前などを口にすることが多かったが、今年の3年生の男児は異質だった。8割がゲームのソフト名を挙げた。
「体験重視」の遊び場にも「仮想現実」のゲームが入り込む。雑草が茂り、廃材やロープを使った遊び道具のある東京都世田谷区の「羽根木プレーパーク」。泥まみれではしゃぐ子どもたちの脇で、額を突き合わせ無言でゲーム機に向かう男児の姿が見られることも珍しくない。
5月の夕刻。ベーゴマに熱中していた中学1年の男子(12)は「これから塾に行って、家に帰ったらゲーム。毎日5時間はする。休みの日には10時間することもある」。隣で見ていた小学6年の男児(11)も「ゲームは晩ご飯を食べる前にやって、食べた後もやる。夜中の2時すぎに寝ている。やることがないからやってる感じ」と話した。
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04年12月に発売された携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」(任天堂)と「プレイステーション・ポータブル(PSP)」(ソニー・コンピュータエンタテインメント)が、「子どもの生活を変えた」と言われる。
ゲーム情報誌「ファミ通」を発行するエンターブレインによると、今年6月末で国内の販売台数はDSが約2269万台、PSPが約949万台に達する。従来の据え置き型に比べ、「いつでもどこでもできる」のが受けている。
厚生労働省の「21世紀出生児縦断調査」では、ゲームをする5歳児は07年に50・6%と半数を超えた。
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公園のベンチ、電車、ファストフード店--。携帯ゲーム機を手にした子どもの姿は今やどこでも見られる。神奈川県の公立小の教員は「放課後、運動場で待ち合わせして、みんなでゲームをやっている」と苦笑する。ドッジボールをしていてもボールを当てられ「外野」に出た途端、ゲーム機を手にする児童もいる。
「DSを持っていなくて『あっち行け』と言われた」「公園でゲーム機がないと、通信できないと言われる」。鳥取市私立幼稚園PTA連合会が昨年行った保護者アンケートには、こんな答えが相次いだ。
親の問題を指摘する声もある。ゲームとの付き合い方を考えさせる教育に取り組んでいる渋谷区立中幡小の学校医、川上一恵さん(45)は「静かだからと電車の中でゲームをさせている。雨の日にどう一緒に遊んだらいいのかわからない、という親も増えている」と話す。
広島市の主婦(36)は昨夏、レストランで目にした4人家族の姿が忘れられない。メニューの注文が終わるや、全員が一斉にDSの画面を開いてゲームを始めたのだ。「それでおいしいのかな」。今も違和感は消えない。
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ゲームが子どもの生活に深く入り込んでいる。子どもの世界で何が起きているのか。=つづく
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毎日新聞 2008年7月22日 東京朝刊