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総合診療科を活用しER型救急を展開

【第21回】洛和会音羽病院院長・松村理司(まつむら・ただし)さん

 救急を断らない―。京都市の洛和会音羽病院は、ER型救急医療を実践する民間病院。年間5000件の救急車を受け入れている。一般病床428床に医療療養型、認知症病床、回復期リハ病棟を合わせて588床で、150人を超える医師を抱える。その総指揮者が、院長の松村理司さん。経営的にも成り立たせながら、ユニークな救急システムを運営するカギはどこにあるのだろう。(吉澤 理)

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■ER型救急の5条件

―まず、ER型救急というものについて教えてください。
 救急を断らない。どんな救急患者さんでも診る。それがER型救急ではないでしょうか。当院でも、救急は基本的に断りません。例外は多発性外傷と広範囲熱傷、それとNICUでないと対応できないような産科の案件くらいでしょう。
 2006年度の救急車の受け入れは4881件でした。病院のある山科区の人口は14万人ほどですが、区内の救急搬送のおよそ7割5分くらいを受け入れていることになります。現在の体制ですと、能力としては年間7000件から8000件受け入れることが可能です。山科区の救急搬送を一手に引き受けることも、無理ではありません。

―それだけの救急を、しかも断らずにやるためにはどのような条件が必要なのでしょうか。
 わたしは、次の5つが必要だと考えています。すなわち、
  (1)常勤医師の豊富な陣容
  (2)救急専属医の存在
  (3)総合診療医の参加
  (4)慢性期病床(回復期リハ、医療療養型)の存在
  (5)精神疾患患者への偏見の軽減
です。このうち(2)はまあ、自明ですね。(4)については、急性期を脱した後のベッドの問題です。転棟、転院をうまく進めなければ、救急のベッドがなかなか空かないことになります。救急を受け入れるとき「空きベッド」は常にネックになりますから。自前で回復期、慢性期のベッドを持っているというのは、かなりの「安心感」になります。
 ただ一方で、病院経営的には慢性期のベッドは常に満床にしておくべきものです。実際に「救急を受けるために急性期から慢性期に患者を移す」というようなことはまずありませんが、いざとなったら、という安心感があるのです。(5)は、そう多くはありませんが、統合失調症などの精神科疾患の患者さんが、身体疾患や外傷などで搬送される場合に、受けられるか、ということです。わたしたちの世代だと、そうした患者さんに触れていないため、身構えてしまいます。それが、新臨床研修制度以降の若い研修医は精神科で最低1か月、入院患者の「主治医」を経験しています。そうした人たちは、あまり身構えることなく受け入れ、診療しています。


■総合診療科の参加がカギ

―「総合診療科の参加」とは、どういう意味でER型救急のために必要なのでしょうか。
 ER型救急を行うためにベストなのは、救急専属医を豊富に配置することです。ところが現在、日本には学会などで救急専門医を取っている医師は6000人ほどしかいません。これは米国の10分の1で、人口を考えても相当に少ない。ですから、救急専門医をずらっとそろえて「さあ、いらっしゃい」とはできない。物理的に不可能なんです。それではどうするのか。そこで出番なのが総合診療科です。
 実は、救急の多くは入院の必要のない一次救急の患者さんです。一次救急のレベルなら、総合診療医は幅広く何でも診ることができます。この特徴を、ER型の救急の場でなら生かすことができるのです。

―そうすると、戦略的に総合診療科を設け、医師を集めて救急に参加させたと…。
 戦略的という意味ではそうですね。総合診療科は今、後期研修医14人を含め23人の医師がいます。外来、入院医療はもちろんですが、救急にも対応しています。また、院内の「雑用」も引き受けています。例えば、慢性的な医師不足に陥っている専門診療科の外来応援、術後遷延性意識障害患者の受け持ち、医師引き上げにより「崩壊」した心療内科の後始末…。
 今、年間の入院患者数は28科ある当院の中で最多ですし、ERからの入院患者の3割を総合診療科で受け持っています。これはやはり、医師の数が多くなければやり切れないことです。その意味で、集中的に総合診療医を確保してきましたし、ある程度評価も頂いているのでは、と思っています。今年の医学生の見学希望は、ほとんどが救急か総合診療科ですから。

―総合診療科だけでなく、全体的に医師の数がかなり多いように感じるのですが。慢性期ベッドも含めて588床で153人。非常勤医師を含めると200人を超えます。
 専門診療科の常勤医師もできるだけ手厚く、と意識してやってきました。救急の応援や外来もそうですし、当直体制の問題もあります。しかし何より、医師が疲れ果ててくたくたになってしまっては、システムが長続きしませんし、医療安全上も問題が大きい。ですから、常勤医師もほかの同規模の民間病院よりかなり多いはずです。
 今、当院の医師はほとんど、当直明けには昼間に帰宅できているはずです。しかも、月8回などということはなく、せいぜい月に1、2回ではないでしょうか。そのことが、医師のリクルートにも役立っているかもしれません。


■人件費率50%で経営が成り立つ

―確かにそれは理解できます。でも一方で、経営を考えると人件費の負担が大きくなるのではありませんか。
 厳しいですよ。看護は一般病棟で7:1を取っていますし、事務スタッフやコメディカル・スタッフも十分に雇用しています。当然、人件費は高くなります。今、当院では人件費率が50%をわずかに超えています。今どきの民間病院としては高い方でしょうが、でもそれは想定済みのこと。経営者としてどう考えたかというと、削れるところを削る、ということ。中でも材料費と建築費です。
 材料費は「値切る」。といってもわたしが業者に直接談判するわけではありません。民間病院の全国的なグループに参加して、さまざまな医療材料を共同購入しています。数が大きくなりますから、かなり安く購入できるのです。

―建築費はいかがですか。
 もうこれは、公立病院などにはかないません。わたし自身、公立病院に長くいたもので、民間に移ってびっくりしたことがあります。一ベッド当たりの建築単価の違いです。公立だと5000万円くらい掛けますが、民間だったらせいぜい2000万円ですよ。だから、アメニティや「見た目」の格好良さでは、民間病院は太刀打ちできません。でも、そうしなければ民間病院は生き残れません。
 医局も「総合医局」と称していますが、要は倉庫のようなだだっ広い部屋に、医師全員が拠点を置く、ということです。曲がりなりにも部屋があるのはわたしだけ。しかも秘書と「同居」です。診療科同士の物理的な「垣根」は確かに低くなりますが、「ここで論文を書け」とはとても言えません。

―今後はどのような展開を考えていますか。
 救急に注力するのは、地域中核病院の社会的使命です。一方で、救急への注力は必然でもあります。
 当院は、がん患者さんが比較的少ない。やはり、歴史があってアメニティが良く、有名な病院に行かれることが多いようです。京大や府立医大は、がん患者さんのベッドの空き待ちが何か月という状態だそうです。
 もちろんこれからも救急は伸ばしていきますが、今後はがん治療にも力を入れたいと思っています。がん診療連携拠点病院にも手を挙げたいとは思いますが、それはもう少し経験を積んでからでしょうね。


更新:2008/07/25 15:49   キャリアブレイン


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