 長期政権に幕―。のぼりべつクマ牧場(登別市登別温泉町)のボスの座をめぐる今夏の政権争いは、9年にわたって君臨した「マツ」(19歳)が体力の衰えなどから敗れ、9歳の若手「サチオ」が第17代ボスに就任した。サチオは生後間もなく親とはぐれ、猫に襲われているところを救われた野生の血を引くクマで、10年ぶりの政権交代を実現した。
マツは平成11年7月にボスに就任し、第6代「ゴンゾウ」の7年を上回る最長記録を更新してきた。今年も威嚇行動やマーキングで上位に位置し、10年目突入が有力視されていたが、5月19日、13歳の「アタロウ」との対決で敗北。体力差を見せつけられたことから精神的にも萎縮(いしゅく)、ボスの威厳を失い、9年にわたる長期政権に幕が下ろされた。
マツの敗北を受け、若手の政権争いが一気に激化。威嚇や攻撃行動が盛んに行われ、それまで政権には無関心とみられていたサチオが台頭した。圧倒的な勝利を続け、マツを引きずり降ろしたアタロウにも圧勝。体長(頭胴長)220センチ、体重390キロの体格と力でボスの座に就いた。
サチオは平成11年に道東・枝幸町の牧草地で母親にはぐれ、猫に襲われ顔をひっかかれているところを地元猟友会に保護された。体重わずか3・7キロ。体調も壊しており生存も危ぶまれたが、釧路市動物園を経由して同牧場でたくましく育った。今春には2頭の初子が誕生しており、父親になった年のボス就任となった。野生の血を引くボス就任はこの約20年間では初めてという。
クマ山の政権争いは、人間の年齢にたとえると60歳代のベテラン・マツから20歳代後半の精鋭サチオへと世代交代が図られた。
同園によると、サチオは牧場内の巡回行動やけんかの仲裁など、ボスとしてはまだ役不足の面があるが、ボス不在で騒がしかった牧場内を徐々に落ち着かせているという。
「猫に襲われていたあのサチオがボスになるとは」と多くの飼育係が目を細めている。とはいえ、ほかの若グマも力を付けボスの座を虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。サチオ新政権の行方は―。クマ山の主導権争いから目が離せない。 (高橋紀匠)
【写真=第17代ボスに就任したサチオ】
|