防衛関連企業と防衛族議員とのパイプ役といわれる人物が24日、東京地検特捜部に逮捕された。社団法人「日米平和・文化交流協会」専務理事の秋山直紀容疑者である。逮捕を機に、特捜部には防衛利権の全容を解明する捜査を望みたい。
秋山容疑者の逮捕容疑は、05年までの3年間に約2億3200万円を税務申告せず、約7400万円を脱税したという所得税法違反の疑いだ。防衛関連企業からコンサルタント料名目で受け取った多額の資金を不正蓄財していたという。
秋山容疑者が防衛業界にいかに食い込んでいたかがうかがえる。企業も秋山容疑者の政界人脈を重視し、見返りを期待して資金提供したケースもあるのではないか。捜査ではこれらの資金がどこに流れたかを突き止めることが求められる。
秋山容疑者の存在は昨年、前防衛事務次官の守屋武昌被告の収賄事件に絡んでクローズアップされた。贈賄側の防衛専門商社「山田洋行」や協会の理事を務める久間章生元防衛相らとの密接な関係が浮かんだためだ。今年に入り、国会での容疑者本人に対する参考人招致や山田洋行の元専務の宮崎元伸被告の証人喚問で、疑惑はさらに深まった。
まず解明すべきは久間氏や山田洋行との関係だ。宮崎元専務の国会証言によると、山田洋行は秋山容疑者を通じて久間氏のパーティー券を購入していた。元専務が山田洋行のオーナーと対立して別の防衛商社を設立すると、久間氏は秋山容疑者も同席した宴席で、元専務に「オーナー親子はいい親子だ」と圧力ともとれる発言をしたという。
久間氏は5月の訪米の際も渦中の秋山容疑者を同行したほどの間柄だ。この日、記者団に「秋山氏の金が我々に渡ったことはない」などと語ったが、きちんと記者会見を開いて速やかに説明責任を果たすべきだ。
防衛庁(当時)が発注した福岡県苅田(かんだ)町の毒ガス処理事業では、協会が関連業務を受注し、山田洋行が事業の下請けに入った。宮崎元専務は秋山容疑者の要請で地元対策費として1億円を渡したと証言したが、秋山容疑者は全面否定した。防衛庁が毒ガス処理の知識を持たない協会に入札参加を要請したうえ、専門家も紹介した不可解な経緯も明らかになっており、これらの解明も必要だ。
協会の理事には久間氏以外にも歴代の防衛庁長官らが名を連ね、秋山容疑者は石破茂防衛相や額賀福志郎財務相らと宴席をともにしたことも認めている。関係する政治家は秋山容疑者とのつながりなどを改めて説明すべきだ。
守屋前次官の問題が明らかになった昨年以降、防衛利権をめぐる政・官・業の癒着解明が特捜部の捜査に期待されたが、現時点では国民が十分に納得しているとは言い難い。今度こそ利権の構図を暴いてほしい。
毎日新聞 2008年7月25日 東京朝刊