北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議参加国の外相による非公式会合は、核申告に対する検証問題の論議を深めることなく終わった。
北朝鮮に対する米国のテロ支援国家指定解除の発効は8月11日に迫っている。核廃棄への手順が不透明なまま、しかも拉致問題に全く動きが見られない中で指定解除の流れだけが強まっていることを危惧(きぐ)する。
今回の会合はシンガポールでの東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)開催に合わせて開かれた。実務者より高いレベルで、北朝鮮の核申告に対する検証体制などを話し合うのがそもそもの目的だったはずである。
先に北京で開かれた首席代表会合では、核施設への立ち入りなどの原則は確認したが、検証手続きの詳細については合意に至らなかった。一方で、核施設を無能力化する見返りとしての北朝鮮への経済・エネルギー支援は今年10月末までに完了することが決まった。
それを考えれば、テロ指定解除までに実効ある検証作業に着手することは、北朝鮮の「食い逃げ」を許さないために最低限必要なことである。
しかし、今回は検証の方法や開始時期を決められなかった。日本からすれば、中身の乏しい「政治ショー」だったように映る。
北朝鮮の朴宜春(パクウィチュン)外相は、6カ国協議の合意を完全履行する意思があると述べた。だが、その一方で「各国がそれぞれの義務を果たすべきだ」と強調した。
北朝鮮にすれば、核施設の無能力化と核計画の申告を行ったのだから経済・エネルギー支援の約束は守れ、ということだろう。
一方、高村正彦外相は拉致問題再調査の早期実施を求め、ライス米国務長官が同調した。ラブロフ・ロシア外相も人道問題解決の必要性を指摘した。
だが、日朝の外相会談は実現せず、両者の接触は会合後の立ち話だけだったという。
北朝鮮ペースの会合だったことは否定できまい。残念ながら、テロ指定解除の既成事実化を外相レベルで確認した会合だったとさえ思える。
米国は北朝鮮の対応次第ではテロ指定解除の発効停止もありうることを示唆してはいる。だが、曲がりなりにも「第2段階」まできた北朝鮮の核問題を逆戻りさせたくないのが本音だ。
テロ指定が解除されれば、次に北朝鮮は制裁解除を強く要求してくるだろう。日本のエネルギー支援参加を求める声も6カ国協議内で高まることが予想される。日本の立場は厳しくなりそうだ。
8月8日の北京五輪開会式には6カ国協議参加各国の首脳が集まる予定だ。その機会に北朝鮮問題が話題になるかもしれない。日本はテロ指定解除後の、次のステップをにらんだ備えも整えておく必要がある。
毎日新聞 2008年7月25日 東京朝刊