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社説

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岩手の地震―列島どこでも常に備えを

 岩手県の沿岸部を中心にした東北地方を、夜中に地震が襲った。

 23人が亡くなったり行方不明になったりした岩手・宮城内陸地震から1カ月余り、大きく崩れた山を目の当たりにした記憶もまだ生々しい。

 今回は地震が起きた場所が地下深かったためか、幸い被害の広がりは前回より小さい。それでも、家屋が壊れ、家の中で転んだりして100人以上の人たちがけがをした。

 それにしても、なぜまた岩手で、という思いがわく。

 しかし、近くで続けて起きたとはいえ、二つの地震の性質は全く違う。

 前回の震源は、山間部の地下10キロ程度の浅い所だった。日本列島のあちこちに潜む「活断層」と呼ばれる断層がずれて起きた。いわば、日本列島を形作る地殻の浅い傷がうずいた。

 これに対して、今回は地下約110キロ、地球を覆っている「プレート」と呼ばれる固い岩板の内部が割れた。

 二つの地震の発生に直接の関係はなさそうだ、というのが専門家の見方だ。タイプの違う地震がいつなんどき、どこで起きても不思議はない状態にあるということだろう。

 このところ、日本列島の地震活動が活発になっているともいわれる。私たちは、そんな地震列島に暮らしていることを、改めて肝に銘じたい。

 地震のタイプにはもう一つ、地下でせめぎ合うプレートが反発することによって起きるプレート境界型がある。巨大な被害が警戒されているもので、その代表が東海地震だ。

 地震は前触れなしに突然襲う。私たちは、とくに阪神大震災以来、身にしみて学んできた。日ごろからの備えが、何より大切だ。

 地震の被害は、地震波の性質によって建物の壊れやすさが違うし、また、起きる場所や時期、時間帯によっても全く違う。

 今回の規模の地震が大都市の住宅密集地を襲ったら、被害はもっと大きかっただろう。夜中でなかったら新幹線が走っていたし、学校など公共施設でけが人が増えたかもしれない。

 地震のたびに、これがもし大地震だったら、と想像力を働かせて備えを固めていってはどうだろう。深夜なら、外出中なら、あるいは地下街にいたら自分はどうするか、何が必要かをそれぞれの立場で考えてみよう。

 今回の地震は、揺れが広範囲に及んだ。遠隔地では、緊急地震速報を聞いてから地震の到来を待つ、という生まれて初めての経験をした人も少なくないに違いない。

 この警報は、揺れが強い震源近くでは間に合わないのが泣きどころだが、場所によっては数秒あれば鉄道などを自動的に止めることができる。頼りすぎず、うまく活用していきたい。

無差別殺傷―この連鎖を断ち切らねば

 ただ、そこにいたというだけで、斉木愛さんは命を奪われた。これからの人生も、思い描いていたであろう夢も、一瞬にして断ち切られた。

 なんということだろう。理不尽さに胸がつまる。

 東京都八王子市の書店で、アルバイト中だった学生の斉木さんと客の女性が殺傷され、33歳の男が逮捕された。

 動機の核心はまだわかっていないが、何よりも気になるのは、「最近あちこちで通り魔事件が起きており、刃物なら簡単に殺せると思った」という容疑者の供述だ。

 無差別の殺人や未遂の事件は今に始まったことではない。昨年までの10年間で67件起きている。だが、今年は、茨城県のJR駅で8人が刃物で切りつけられ、東京・秋葉原の電気街では17人が殺傷されるなど、凶悪さの際だつ事件が続いている。

 八王子で逮捕された男が言うように、こうした凶行が新たな事件の引き金になっているとしたら、とんでもない連鎖というべきだろう。なんとしても断ち切らなくてはならない。

 一連の事件に共通しているのは、「だれでもよかった」「むしゃくしゃしていた」など、容疑者たちの言い分の幼稚さであり、身勝手さだ。それはいくら非難しても足りない。

 だが、非難するだけでは、次の事件を防ぐことはできない。秋葉原の事件のあとにダガーナイフを規制する方針が打ち出されたが、家庭にある包丁まではなくせない。

 特効薬がないとしたら、事件を誘発しそうな問題点や社会のひずみ、矛盾などをできるところから減らしていくしかあるまい。

 まず考えたいのは、人間関係が希薄になっている世の中で、孤立感を深める人が増えているということだ。

 仕事や生活でうまくいかないことがあっても、だれもが犯罪に走るわけではない。相談する人さえいれば救われることも多い。家庭や学校、職場で、人とのつながりが持てれば、犯行を思いとどまることもあるだろう。

 二つ目は、人々が少しでも安定した暮らしを送れるような社会にできないかということだ。日本では高度成長期のような明るい未来像を抱きにくい。不安定な仕事だったり、極端に給料が安かったりすれば、なおさらだ。そんな状況が、自暴自棄になる人を生む一因になっているのかもしれない。

 教育の取り組みも必要だ。どの事件の容疑者も、刃物を向ける相手への想像力に欠け、痛みに思いが至っていない。そんな人間をこれ以上生み出さないためには、命の大切さを幼いころから時間をかけて学ばせるしかない。

 親も子どもの成績ばかりでなく、人間としての心が育っているかどうかに目を向けることが大切だ。

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