政府が財政再建の目標に掲げる二〇一一年度の基礎的財政収支の黒字化に黄信号がともった。内閣府が経済財政諮問会議に提出した試算によると、景気悪化による税収減で一一年度は三兆九千億円程度の赤字になるとされ、財政健全化への道は厳しい局面を迎えた。
基礎的財政収支は財政の健全性を表す指標で、プライマリーバランスともいわれる。行政サービスに使う政策経費を、その年の税収・税外収入でどれだけ賄えたかが分かる。黒字なら新たな借金なしに財政が運営でき、将来の世代につけを回さなくてすむことを意味する。
基礎的財政収支は、バブル崩壊後の景気低迷期に大きく悪化した。税収が落ち込む一方で、国や地方が借金を重ねて公共事業を中心にした景気刺激策を取ったためだ。
借金の増大に危機感を強めた政府は、小泉政権時代の〇六年の「骨太の方針」で、一一年度には国と地方の基礎的財政収支を黒字化すると公約した。歳出削減などにより、それまで毎年十兆円を超えていた赤字は現在、半減状態に好転している。
このまま赤字を圧縮し、黒字化の目標達成が期待された。しかし、今回の試算では、原油価格の高騰や米国の景気減速を受けて国内景気が悪化し、法人税などの税収が当初の想定を下回ることから黒字化は困難視されるとした。
確かに状況は厳しいが、基礎的財政収支の黒字化は財政再建に向けた重要な一歩である。ここが踏ん張りどころといえる。
黒字化への対応策として、大田弘子経済財政担当相は「歳出削減と成長による税収増、増税の三つしかない。三つを組み合わせていく」とする。
最優先すべきは歳出削減の徹底だろう。成長力の強化につながるような制度改革などには積極的に取り組む必要はあるが、景気刺激策として安易な財政出動は慎んでもらいたい。財政規律が一度緩むと、歯止めが利かなくなる。
増税についても、慎重な対応が求められる。税収が減った分を増税で賄うのはリスクが大きい。消費をさらに冷やし、悪循環に陥る可能性が高い。高齢化に伴い増加が予想される社会保障費の財源として増税を検討するのは別問題と認識し、区別して考えるべきである。
歳出削減では、従来の延長線上で既存の予算をいくら削るかという次元では限界がある。必要性や優先順位を徹底的に精査する大胆さが重要だ。メリハリのある財政改革を断行しなければならない。
一九九〇年代前半のボスニア・ヘルツェゴビナ内戦時におけるセルビア人勢力の政治指導者で、イスラム教徒虐殺の責任を問われていた大物戦犯ラドバン・カラジッチ被告が、セルビア国内で治安当局に拘束された。
オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷から九五年にジェノサイド(民族大量虐殺)などの罪で起訴されながら、逃亡を続けてきた。内戦終結から十三年を経てついに、法の裁きを受けることになる。
カラジッチ被告は、同法廷の拘置所で二〇〇六年に死亡した元ユーゴ大統領ミロシェビッチ被告に次ぐ大物だ。イスラム教徒、セルビア人、クロアチア人が三つどもえとなり対立したボスニア内戦時に、イスラム教徒ら約八千人が犠牲になったとされる虐殺事件などを主導、「民族浄化」の推進役となった。
九二年末、セルビア人勢力がボスニア内に樹立宣言した「ボスニア・セルビア人共和国」の大統領に就任したが、起訴後の九六年に大統領を辞任し、その後、姿を隠していた。偽名を使い、長髪とあごひげで容ぼうを変え、ベオグラード市内に潜伏していたという。
セルビアはコソボ独立問題を抱えながらも、欧州連合(EU)加盟を目指している。今回の拘束は、加盟への意思をより鮮明に示したともいえよう。
九三年の国連決議に基づき設置された旧ユーゴ法廷では、百六十一人が訴追され、五十六人が有罪判決を受けている。ミロシェビッチ被告の病死で、戦争犯罪の「真相」が闇に葬られるのではと懸念する声も上がっていただけに、カラジッチ被告拘束の意義は大きかろう。
全容解明を国際司法の場で進め、徹底的に責任を追及すべきだ。権力者による虐殺などの再発予防が期待できよう。
(2008年7月24日掲載)