〔焦点〕6月貿易統計ではっきりした輸出急減速、新興国向けで補えず景気後退リスクも

2008年 07月 24日 14:25 JST
 
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 [東京 24日 ロイター] 財務省が24日発表した6月貿易黒字額は1386億円となり、市場予想の5030億円を大幅に下回った。さらに6月輸出は前年比1.7%減と2003年11月以来、55カ月ぶりのマイナスに転じた。これまで落ち込みが目立っていた対米輸出に加え、欧州向けも大幅なマイナスになった上に、アジア向け輸出の伸びが急減速したためだ。民間エコノミストの間では、欧米など先進地域への輸出減少分は、中国・インドなど新興国・資源国の輸出増加で補完されるといういわゆる「デカップリング論」が現実味を失い、世界景気が失速するリスクが高まっているとの見方が台頭。輸出の減速傾向がこの先も明確になれば、鉱工業生産が下振れし、景気後退懸念も一段と強まりそうだ。

 <欧州向け輸出も大幅減>

 今回の数字について、エコノミストからは「かなりショッキングな内容」(バークレイズ・キャピタル証券、チーフエコノミストの森田京平氏)との評価が少なくない。

 輸出については、実額だけでなく、数量も前年比マイナス1.4%と16カ月ぶりに減少した。地域別輸出をみても、米国向けが前年比15.4%減と03年11月以来、欧州連合(EU)向けは同11.2%減と02年3月以来の大幅な減少となった。

 アジア向けだけは1.5%増と、かろうじてプラスを維持したものの、05年5月(1.5%増)以来の小幅な伸びにとどまった。

 もっとも6月の輸出減少が一時的なものになる可能性も否定できない。輸出の押し下げに寄与したのは、船舶、電算機類の部分品だが、特に、船舶は値が張る上に、輸出ひん度にもばらつきがあることが知られている。財務省では、輸出減少が一時的なものか否かについて「特定は困難」とした。

 <貿易収支、今年中に赤字転落の声>

 複数のエコノミストからは「いわゆるデカップリング論がかなり危うくなってきた」(森田氏)との声が出ている。実際、欧米向けだけでなく、新興国向け輸出も減速が目立っている。インド向け輸出は1─6月期が前年比34.3%増だったが、6月は19.3%増に減速した。豪州向けも24.1%増から19.6%増、ブラジル向けも29.9%増から20.7%増、ロシア向けも49.0%増から39.4%増へと、軒並み伸びが鈍化している。

 エコノミストが特に注目するのが、アジア向け輸出の減速だ。住友商事総合研究所・チーフエコノミストである奥田壮一氏は「日本にとっては、全体の5割弱と高いウエートを占めるアジア向け輸出が伸び悩むと、全体への影響は大きい」と懸念を隠さない。

 アジア向けの減速について奥田氏は「米国経済の減速が波及しているというよりは、インフレ懸念を背景にアジアの国々が経済を犠牲にしてもインフレを抑制するべく金融引き締めなどのマクロコントロールに動いた影響が出始めた」と分析している。

 今後の輸出動向について「下期に向けてアジア向け輸出が減少に転じることは間違いなく、全世界的に輸出が減少することは時間の問題」(奥田氏)など慎重な声が多い。

 BNPパリバ証券・エコノミスト、丸山義正氏も「外需のけん引力が相当落ちている」とした上で「今年中にも貿易赤字になることは否定できない」と予想した。もっとも日本の内需が低迷し、輸入数量が減速するとみられるため、貿易赤字が定着するには至らないという。

 <強まる生産・景気の下押し圧力>

 輸出減少が明確になれば、日本経済への悪影響は避けられない。「今回の日本の景気回復局面は、過去に比べて外需・輸出への依存度が極めて高いことが特徴」(シティバンク銀行・為替市場調査シニアマーケットアナリスト、城田修司氏)であるためだ。今回の景気拡大が始まる前の2000年度では、輸出の実質国内総生産(GDP)に対するシェアは10.9%だったが、07年度には15.9%と大きく拡大している。

 城田氏は「輸出の減少は、日本の景気腰折れリスクを高める可能性がある」と警告した。森田氏も「輸出数量が鉱工業生産に1四半期程度先行することを勘案すれば、年内の鉱工業生産は、回復、停滞、後退のうち、停滞になりそう」と予想した。鉱工業生産は1─3月期に続き、4─6月期も前期比で小幅マイナスに転じるとの見方が多いが、明確な改善は当面期待できそうにない。

 森田氏は「日銀、内閣府の景気シナリオがもう一段の下方修正を迫られる局面が年内にもある」と予想した。足元での輸出低迷が、いずれのシナリオにもまだ十分織り込まれていないためという。

 内閣府は22日、08年度の経済動向試算を発表して、08年度のGDP見通しを下方修正したが、08年度の外需寄与度については、プラス0.4%からプラス0.5%と上方修正するなど、外需依存が一段と強まるとのシナリオを明確にしている。

  

 *貿易黒字の記事は[nTK0162386]をご覧ください。

 *財務省の発表資料は以下のURLをダブルクリックしてご覧ください。

  http://www.customs.go.jp/toukei/latest/index.htm

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  (ロイター日本語ニュース 児玉 成夫記者、取材協力:武田晃子、寺脇麻理、基太村真司;編集 田巻 一彦)

 
 

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