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2008年7月25日

◎小松−静岡便 採算性確保は甘くないが…

 来年夏からの就航がほぼ固まった小松―静岡便は、地方空港と地方空港を小型機で結ぶ 「リージョナル航空」の可能性を探る新たな試みとなろう。日本では大型機による大量輸送が一般的だが、米国やドイツでは航空機の四割が座席数百席以下のリージョナル機で占められ、多様で多彩な「空の足」として利用されている。ジェット燃料の高騰などで航空ビジネスの環境は厳しいが、ビジネス、観光両面での需要を掘り起こし、地方と地方の交流をより活発にしたい。

 専門家で構成される「静岡空港・リージョナル航空研究会」は三年前、今回就航するブ ラジル製ジェット機「エンブラエル170(七十六人乗り)」を想定した採算性のシミュレーションを行っており、小松―静岡便の損益分岐点を61%と推計している。その後のジェット燃料の高騰を考えると採算ラインはもっと高くなっているはずであり、収益確保には北陸と東海地区を行き来するビジネス客の利用促進がカギとなろう。

 北陸と静岡県は直線距離ではそれほど離れていないが、時間距離がかかることもあって 、お互いに遠い存在といえる。定期便の就航は、そんな心理的な距離感を払しょくするチャンスになる。静岡の富士山、石川の白山、富山の立山という「日本三名山」を結ぶルートでもあり、それぞれが持つ魅力的な観光資源を結びつける発想も求めたい。

 小松空港発着の国内便は現在、羽田、成田、福岡、札幌、仙台、沖縄の六路線がある。 小松―静岡便は、国内便としては〇四年十一月就航の成田便以来の新路線となり、静岡市に誕生したばかりの航空会社が航空ビジネスに参入する。小松空港では以前、鹿児島、広島、岡山、出雲、松山、高松、新潟間に定期便が就航したことがあるが、いずれも採算性が悪化し、廃止になった。

 小松―静岡便も見通しは甘くはなかろうが、リージョナル航空路線の多路線化、多便化 は国際的な傾向であり、欧米では地方空港の主役になっている。国内でも大型機では無理でも、小型機なら採算が取れる路線は意外に多くあるのではないか。

◎呼吸器外しで送検 殺人罪にはやはり違和感

 射水市民病院で人工呼吸器を外された患者七人が死亡した問題で、富山県警が元外科部 長ら二人を殺人容疑で書類送検し、厳罰を求めない意見書を付けたのは、家族に処罰感情がなく、過去の同種事件も考えれば理解できる判断である。一見、矛盾したように思える警察の対応は、延命中止の法的責任を問うことの困難さも浮かび上がらせている。

 射水市民病院の問題を受け、厚生労働省は昨年四月、延命治療開始や中止の手順を定め た初のガイドラインを示した。日本救急医学会は延命治療を中止できる指針をまとめ、個々の病院の倫理委でも論議が活発化した。だが、どういうケースなら刑事責任が問われないのか、免責基準はあいまいなままである。そうした状況の中で殺人罪を適用することにはやはり違和感を抱かざるを得ない。

 刑事訴追の判断を委ねられた富山地検は不起訴にするとの見方も出ているが、それによ って今回の問題が終わるわけではない。現場の裁量だけに任せていては同じことが繰り返される恐れがある。国は殺人罪を無理に適用しなくても済むよう、延命中止の法的責任の範囲を明確にする時期にきているのではないか。

 書類送検された元外科部長は「患者を見送るに当たり、皆が納得していた」と医療行為 としての正当性を強調している。だが、「倫理的に問題があった」とする病院長との認識の食い違いは見過ごすことができない。厚労省のガイドラインなどで延命治療中止の可否は患者本人の意思に基づき、医療チームで慎重に判断する方向性が定着してきた。一人の医師の独断、独善と受け取られないような透明性は確保しておく必要がある。

 看取りの場が自宅から病院に変わり、「延命」という新たな問題が生じた。回復の見込 みがなく、死期が迫った患者と向き合う場面は決して特異ではなく、自らもそうした状況に置かれる可能性がある。延命治療の可否は個々の死生観が問われる極めて難しい問題だが、司法や医療の現場だけに任せず、一人一人が真剣に考えたい身近なテーマである。


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