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新教育の森:子どもとゲーム/2 現実と混同する例も

 00年1月、川崎市内のある住宅街は騒然となった。半年前から足や耳を切り取られた野良ネコが次々と見つかっていた。交代で夜間の巡回を続けていた住民が見たのは、近所の14歳の少年がエサをまいてネコをおびき寄せる姿だった。

 「ゲームをしているうちに殺してみたくなった」。母親に連れられて東京都内の神経科クリニックを訪れた少年は、医師に抑揚のない声で打ち明けた。

 1年前から、モンスターを武器や魔法で倒すゲームにはまっていた。1日約8時間。昼夜逆転の生活で中学も欠席がちだった。「少年は生き物をパーツの塊としか見ていなかった」。医師は少年に残虐行為の意味を考えさせるとともに、ゲーム時間を徐々に減らさせ、1年かけて「正常」に引き戻した。

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 ゲームと暴力の関連性は、凶悪事件が起きるたびに取りざたされる。98年に東京都江東区で15歳の少年が警察官をナイフで襲った事件では、東京家裁がゲームの影響を指摘。00年に大分県野津町(現臼杵市)で一家6人が15歳の少年に殺傷された事件では、大分家裁は「残虐なテレビゲームや映画の影響で、殺人への抵抗性が低くなっていた」とした。

 05年2月の大阪府寝屋川市での教職員殺傷事件では、17歳の少年がゲームマニアと報じられたのを機に、神奈川県などが残虐ゲーム規制へと動いた。ゲーム業界を中心に「今どき、ゲームをしていない子を探す方が難しいのに、なぜかゲームのせいにされる」(ゲームソフト会社社長)との反論が出ているがゲームと事件に因果関係はあるのか。

 ゲームの子どもへの影響を約20年間調査している坂元章・お茶の水女子大教授(社会心理学)によると、心理学の分野では世界的に「暴力的要素が強いゲームが暴力性に影響を与える場合がある」という論文が90年代後半から目立つようになった。影響がみられないケースもあり、何が左右するのか未解明の部分が多いが、坂元教授らの調査では「一緒に遊ぶ他者が暴力シーンに否定的な態度を示すと影響が弱まる」との結果も出ている。

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 人気ゲーム機「プレイステーション2」には、実写と区別がつかないほどリアルな映像のゲームが多い。レースゲームの「グランツーリスモ」シリーズもその一つ。サーキットの周囲の風景まで忠実に再現し、「練習」に使うレーサーもいる。

 埼玉県に住む私立大学3年の男子学生(21)は小学生の時から熱狂的ファン。「ゲームのように動かしたい」。19歳で実際にスポーツカーのハンドルを握った時は毎日走り回った。

 1年後、事故を起こした。左折時に後輪を横に滑らせるドリフトに失敗し、道路脇の壁にぶつけた。ゲームなら軽く乗り切れたはずだった。明らかな速度オーバー。我に返った。以来、無謀な運転はしていない。

 最近、毎晩遅くまでゲームをする中学生の弟が気がかりだ。時々助手席に乗せる。「ゲームは楽しいからやめられない。ただ、現実の世界は違うということを大人が教えてあげることが必要だと思うんです」=つづく

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毎日新聞 2008年7月23日 東京朝刊

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