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ER型救急は「ペペロンチーノ」(上)

 「ER型救急医療機関」の定義があいまいであるにもかかわらず、ER型救急をモデル事業として実施するとの内容を盛り込んだ中間取りまとめ(案)が、7月17日の「救急医療の今後のあり方に関する検討会」(座長=島崎修次・日本救急医療財団理事長)で、大筋で合意された。これについて、厚生労働省医政局の三浦公嗣指導課長は、キャリアブレインに対し、「スパゲティにはいろいろあり、何をもってスパゲティと言うかがある。今回は『ペペロンチーノを作りましょう』ということだ」と、定義や機能が不明瞭(めいりょう)なまま、形だけを進めようとしているモデル事業を例えてみせた。一方、昭和大学病院の有賀徹副院長は、「医療のプロである医師は、モデル事業がどういう『素材』でできているか分かる。中身がないままではうまくいかない」と、形だけを先行させようする予算取りの政策だと批判している。(熊田梨恵)

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 同検討会は、年々増加する救急搬送件数や、救急受け入れ不能などの問題を受け、救急医療体制の確保などを目的に、昨年度に設置された。当初は救命救急センターの整備や評価などについて議論していたが、4回目から二次救急についての議論を開始。疲弊する救急医療や、ER型救急の現状についてのヒアリングなどを実施してきた。


■突然に「ER型救急のモデル事業実施」

 しかし、今回の中間取りまとめ(案)に、ER型救急を「モデル事業として一部地域において試行」との提案が突然盛り込まれた。前回の中間取りまとめ骨子(案)でもER型救急について触れられてはいたが、今回は具体的に実施を示唆する内容に書き換わっている。中間取りまとめに具体的に記載されると、来年度予算に盛り込まれ、実現に向かう可能性が極めて高くなる。

 また、厚労省が7月11日付で発表した人事異動で、同検討会を担当する医政局指導課長が交代している。前の佐藤敏信課長は、診療報酬改定を担う中央社会保険医療協議会のかじを取る保険局医療課長に異動。現職の指導課長には、前の文部科学省高等教育局の三浦公嗣医学教育課長が就任した。三浦氏は、1983年に旧厚生省に入省し、2000年の介護保険制度創設に深くかかわった医系技官だ。前職では、医師養成数の増に否定的な見解を示していたとの指摘もある。


■不可解な前課長の姿

 17日の会議は、省内ではなく、金融庁がある合同庁舎7号館で開催された。開催前、既にこの検討会の任務からは離れているはずの佐藤医療課長が会議室に訪れ、山本保博委員(東京臨海病院長)にあいさつし、名刺交換する光景が見られた。山本委員は、厚労省や消防庁などの検討会の委員をよく務めており、佐藤課長とは知った仲だ。この日、医政局と健康局以外では、厚労省に関係する検討会などは同館では開かれておらず、佐藤課長はこの会議室までわざわざ足を運んだとの見方もできる。

 会議冒頭、三浦課長が新任のあいさつ。「(検討会が)第6回ということで、マラソンで言うと選手がスタジアムに入ってくるところまで進んできたが、前任の佐藤からわたしにそういう段階で引き継がれた。円滑に引き継ぎが行われるよう努力したい」と述べた。

 会議は、事務局が作成した中間取りまとめ(案)を、医政局指導課の田邉晴山救急医療専門官が読み上げる形で進行した。田邉専門官は、日本医科大からいわゆる「人事交流」で同省に来ている医系技官で、このポストは2年程度で入れ替わることが多い。


■ER型に「定義はない」

 今回の中間取りまとめ(案)の、「ER型救急医療機関について」の項目では、ER型救急の現状について、定義と利点・課題、今後の整備についてなどが記載されている。定義については、「ER型救急医療機関と称される施設の状況を概括」との形で、▽軽症から重症まで、疾患、年齢、搬送手段を問わず、救急室(ER)で受診するすべての救急患者を受け入れる▽救急患者すべてにER型救急医が救急初期診療を行い、入院治療や手術が必要な患者を母体病院の該当診療科に振り分ける▽ER型救急医は入院診療や手術などを行わないという体制を確保している―を挙げた。ただ、すべての施設がこの体制を確保しているのではなく、「定義は必ずしも明確になっていない」としている。

 ER型救急医療機関は、日本救急医学会によると、北米型の救急医療体制となる。▽重症度、傷病の種類、年齢を問わず、ERですべての患者を診る▽救急医がすべて診る▽救急医がERを管理・運営する▽研修医が救急診療をする際は、ER常駐の「救急専従医」が指導する▽救急医はERでのみ診療し、入院診療を担当しない―などの特徴がある。また、「A&E」(Accident and Emergency)と呼ばれる英国などの救急体制もある。厚労省の調べでは、国内でER型救急医療機関と呼ばれる施設は、100か所程度あるが、それぞれが地域の実情などに合わせて独自のシステムで展開しているため、決まった定義はない。

 会議は2時間の予定だが、事務局からの資料説明などに時間が割かれ、既に1時間10分が経過している。
 田邉専門官が、「ER型救急医療機関について」の項目を読み上げ、委員に意見を聞いた。


■「体制と救急医、どちらを求める」

 まず、坂本哲也委員(帝京大医学部救命救急センター教授)が口火を切った。
「言葉の定義が不明瞭なところがある。ER型救急医療機関とは、医療機関としてすべての重症度や年齢の患者を受け入れ、断ることなく救急外来で診るということなのか。それとも、どんな年齢や症状の患者でも診られる『ER型救急医』がいて、彼らが働くのがER型救急医療機関なのか。例えば、多くの場合は、医師不足の中、既存の内科や総合診療の医師、救急医や外科医などを動員し、皆で協力して病院の体制としてER型に近いものを実現していこうというのが実態に近いと思う。ER型救急医を求めているのか、医療機関(の体制)としてのER型救急医療機関を求めているのかが不明確」
 また、ER型救急の利点を、「救急車の受け入れ拒否が発生しにくい」と記載していることについて、「これ(ER型救急)をするだけで、ばら色の解決に見えてしまう。あくまで(医師の)専門分野を理由とした受け入れ不能は発生しにくくなるということ」と述べ、修正を求めた。

 これに、会議開催前に佐藤課長とあいさつしていた山本委員が続いた。
「定義だが、この中に『ER型救急医が救急初期診療を行い、入院治療や手術が必要な患者を母体病院の該当診療科に振り分ける』とあるのだが、この定義でよいのか。救急医が入院治療をすることもあるのでは。付属している病院が『母体病院』という意味だと思うが、新規(の病院)に振り分けたり、上り搬送したりする患者もいてもいい。少し整理を変えた方がいいのでは」
 挙げられた項目は「ER型の定義ではない」との内容が、中間取りまとめ(案)には示されているが、定義と取り違えての発言だ。

 島崎座長がこれに応じ、「まさに定義がはっきり決まっていないので、『こういうことでやっているのもある』という一つの例だ。救命センターとERという形もあれば、救命センターとERだが、それぞれが全く機能を別にしているERもある。分類の仕方が多く、軽症患者を含めて診ている所は、全部ERと言っている」と指摘した。


■なぜ「総合診療科」

 しかし、ここで山本委員が議論の方向を変える発言をした。
「ER型救急医療機関というのは、『総合診療科』とどういう関係になるのか。あるいは、プライマリーケアの皆さんと(の関係)はどういうふうになるのか。その辺も、どこかで突いておく方がいいと思う」と述べた。ER型救急では、救急患者に対する総合診療を行うとの観点から、現在同省内で議論の決着が付いていない「総合診療科」の話にかぶせた発言だ。

 「総合診療科」や「総合医」をめぐっては、地域で患者を生活面などからトータルで支え、主訴や臓器などを問わず長期的にかかわる、いわゆる「かかりつけ医」のイメージだが、定義や呼称、育成方法などにさまざまな議論がある。昨年度から同省の医道審議会医道分科会診療科名標榜部会が議論を進めているが、関係各団体の利害も絡んで議論が棚上げされている。総合診療科の創設に強く反対する日本医師会の委員もいることを考えれば、この検討会に総合診療科の話を持ち込むことで、議論が錯綜(さくそう)することは目に見えている。

 ここで田邉専門官が返答。「ER型救急医療機関については定義できないということで、『ER型救急医療機関といわれる施設を概括してみる』という形で『大体こんなものなのかな』という形で書かせていただいた。ER型救急医療機関の定義が必ずしも明確になっていない状況だ」と解説した。


■定義の話はどこへ

 ここで座長が突然、モデル事業の実施に言及。「モデル事業でやり始めると、皆さんのコンセンサスが一定の方向に向かうかもしれない」と、肯定的な姿勢を示したのだ。
 さらに山本委員の「総合診療科」発言にも触れ、「総合診療とかプライマリーケアの話があったが、行政(厚労省)としてはこの委員会とは別に、そういう総合医療的なこととか、プライマリーケア的なことの検討会はあるのか。そういう検討会があれば、そこで救急医療をどう位置付けているか聞きたい」と述べた。坂本委員の、ER型救急の定義の話は置き去りにされ、総合診療科の話にすり替わってしまった。

 田邉専門官は「ちょっと現状では明確にならないので次回答えたい」と応じた。「総合医」などを議論する診療科名標榜部会の担当は、医政局総務課になるため、田邉専門官の管轄外だ。

 ここに、石井正三委員(日本医師会常任理事)が割って入り、「日医としては、いわゆる『総合医』には反対だから、あまり踏み込まないでほしい」と述べた。日医は、厚労省から総合医などの提案が出た2006年度の当初から反対しており、日本プライマリ・ケア学会などと共同で、日医による「認定かかりつけ医制度」を提案している。


■会議は迷走

 島崎座長は石井委員に対し、「いや、踏み込んでいい。つまり、はっきりさせたほうがいい。この検討会でそういう形で、プライマリーケアを扱うならば、ここでイニシアチブを取り、そのままやっていいかどうかということを含めて、今行政に聞いた」と答えた。救急医療のあり方検討会として、救急患者に対する初期診療を行う観点から、総合診療科の議論を進めようとの提案だ。だが、中間取りまとめ(案)に関する議論をこの会議中にまとめなければならない座長の発言としては、明らかに議論の方向性からずれている。

 石井委員が再度、島崎座長に呼び掛ける。「もう一度言うが、日医としてもその辺を整理し、提出したいと思っている。いわゆるゲートキーパーとしての『総合医』や『かかりつけ医』の存在は、今のフリーアクセスを悪くする要因になるから、いきなりそこは考えない方がいい。別の解決があるのでは。ここでいきなりそれ(総合医)に入ると、大変になる」。

 山本委員の「総合診療科」発言から始まって、石井委員に座長までが加わり、議論は迷走。中間取りまとめ(案)に記載されているER型救急の項目についての議論でなければならないはずが、なぜか座長自身が総合診療科とER型救急を絡めた話から離れようとしない。

 揚げ句の果てに、島崎座長が「差し当たって、行政施策なども含めて、ここでそういうER的なものをひっくるめた救急医療というものを、ここで全部討議してしまっていいわけですね」と事務局に尋ねる始末だ。中間取りまとめ(案)から懸け離れてしまったこの議論に、ほかの委員は加わることができないように見えた。
(下に続く)


更新:2008/07/24 20:06   キャリアブレイン


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