<スクウェア・エニックスマンガ大賞考察(3)>
2007・2・7<第2回新世紀マンガ大賞>(少年ガンガン2000年7月号発表)
大賞 Spring sprinter 瀬戸蔵造(20) 入選 私と弟と。 咲良あさみ(18) こわれたものはなおしましょう 巣山真也(18) 華屋 釜谷悠希(17) 佳作 Spring8 佐々木少年(24) Verteidiger 小杉繭(24) 森の動物屋さん ともともみ(22) バリン! 泰川淳行(29) ウェディング・ベルベル ターニャ谷(26) 枯れない花 中村光(15) この回の受賞者はかなり面白いですね。受賞後の経緯が様々で、伸びずに成功できなかった人、エニックス外の他出版社で活躍した人、最初はエニックスで執筆していたがのちに他出版社に移った人、エニックスでそのまま活躍し続けている人、と実に多彩です。
まず、大賞の瀬戸蔵造ですが、彼の受賞作は典型的な少年マンガ的作品で、王道スポーツものでした。当時のガンガンは、ちょうど路線を変更し始めた矢先の状態で、そんなガンガンの方向性を露骨に反映した受賞でした。彼の作品は、確かにスポーツものとしては力作だったかもしれませんが、それ以上に突出したものがなく、ガンガンの読者との相性も悪く、結局連載を持つことはありませんでした。
一方で、入選の受賞者3人は、それぞれ連載を持つまでには成功します。
まず、咲良あさみですが、こちらはスタンダードな少女マンガ的作風の作家で、ステンシルで連載を獲得します。しかし、さほど大きな人気を得ることはなく、ステンシルの廃刊とともにエニックスでは見られなくなり、その後は講談社のなかよしに移って執筆しているようです。面白いのは巣山真也です。彼の受賞作「こわれたものはなおしましょう」は、やさしい作風が感じられる素晴らしい読み切りでした。しかし、その後は、あの伝説の「悪魔事典」の連載を開始。これがとんでもなくレベルの低い作品で、受賞作の快挙が信じられないような作品に終始してしまい、成功の道は閉ざされます。
最も成功を収めた実力派作家が、釜谷悠希(鎌谷悠希)です。受賞後、Gファンタジーで地道に読み切りを重ねて実力を高め、満を持して始まった連載「隠の王」が雑誌でも屈指の人気作品となります。
佳作受賞者の方々の経緯も面白いですね。
まず、ここでいきなり佐々木少年の名前が挙がっています。受賞後、エニックスでは一切作品を残しませんでしたが、のちにメディアワークスの方で「真月譚 月姫」の連載を開始。これが素晴らしい作品で、一躍有名になります。それにしても、前の武内崇の佳作受賞といい、なにかエニックスにはこのゲームと縁がありますねえ。
一方で、小杉繭は、エニックスのGファンタジーでの連載を獲得(「Blanc Project」)。それなりの完成度の作品でしたが、その後次回作は出ず、今では他出版社に執筆の場を移しています。
ともともみ(智)も、エニックスでは長らくゲーム系4コマ・アンソロジーでの執筆にとどまり、今では一迅社の「ぱれっと」でオリジナルの4コマを掲載しています。
そんな中で、唯一エニックスで成功したのが中村光ですね。受賞時わずか14歳で、高校生時代にWINGで「中村工房」を連載。のちにヤングガンガンで「荒川アンダーザブリッジ」を連載。どちらもギャグマンガとして高い評価を獲得しました。
<第3回新世紀マンガ大賞>(少年ガンガン2001年1月号発表)
準大賞 一善の骨 大久保篤(21) Brand-new Ground 中邑尚子(22) 入選 AS-AS 下月かよ子(16) MARK−自分の居場所− 瀬尾真由子(19) 母は3センチ もち(16) Be together! せと鳴海(20) 佳作 木乃伊酒店「牧」 藤原淳子(22) この世で一番大切なあなたへ 花水木リエ(20) 黎明炎夜 木村有里(22) WILD OWL たつみ耶也(24) 栄華の陣 神堂あらし(20) 時間漂流記 秋乃モス(23) カミル 芥川百合子(24)
全体的な成果はふるわない回ですが、ひとりだけずば抜けた新人が登場します。
なんといっても、準大賞の大久保篤ですね。受賞作の「一善の骨」は、「B壱」とタイトルを変えて、かなり近い形で連載化されます。これは中途で理不尽な打ち切りにあってしまいますが、のちの次回作「ソウルイーター」が見事な成功を収め、ガンガンの中心作品にまで成長します。ただ、それ以外の成果は今ひとつふるわず、全体的には小粒です。
もうひとりの大賞受賞者である中邑尚子は、かなりの実力が感じられる大人向けの作品が印象に残っていますが、いかんせんガンガン系読者との相性は悪く、定着することはできませんでした。
入選での瀬尾真由子は、ガンガンWINGで連載を獲得しますが、短期での終了で終わり、これまた定着できずに早期に消えてしまいます。同じく入選のせと鳴海(瀬都ナルミ)は、最近になってブレイドの方で連載を獲得しますが、こちらも今ひとつでした。
佳作の木村有里は、ガンガンの「ヴァンパイア十字界」の作画担当として、長期に渡って連載を受け持つことに成功します。同じく神堂あらしは、一迅社のゼロサムやぱれっとの方で活動しているようです。やはり、大久保篤を除いては全体的にぱっとしませんね。ガンガンの改革路線でエニックス全体が混乱し始めていた時代なので、新人発掘がうまく行かなくなったのも無理はありません。また、当時は、このマンガ賞ではなく、新創刊されたパワードでの読み切りからデビューした人が多かったように思います(赤美潤一郎、高坂りとなど)。
<第4回新世紀マンガ大賞>(少年ガンガン2001年7月号発表)
準大賞 宗教関係の人々 脇島メイ子(20) 天真浪漫 桜並あかね(17) 入選 バイサイレントフェスティバル 久米田夏緒(17) 前夜 西田理英(24) デザートビースト 桔也東子(27) 佳作 FAKE かろな夜翔(22) チップス 有藤あると(19) 檻の中の学校 水谷風子(19) るみ 梶原宣幸(29) 神衛の空 蛭坂千代(25) 空の殻 羽倉篤史(23) この回はもう最悪です。全くといっていいほど成果が出ておりません。
準大賞の脇島メイ子・桜並あかね、入選の久米田夏緒などは、それぞれかなりの個性を持つ受賞作を残したと記憶しているのですが、その後はほとんど見かけなくなります。特に、準大賞のふたりは、受賞作以外ほとんどなにも残していないはずです。もうひとりの入選である西田理英は、のちにブレイドの方で連載を獲得しますが、かろうじて成功したのはこの程度でしょうか。佳作以下の作家も、まるで作品を残していません。ここまで成果が出なかったのは、明確な理由があります。
この賞が発表された当時は、あの「エニックスお家騒動」の直前であり、エニックス全体が大混乱に陥っていた時期でした。そして数ヵ月後には、実際にお家騒動が勃発してしまい、多くの編集者と作家が一斉にエニックスから離脱してしまいます。こんな状況でまともに新人育成が出来るわけがありません。受賞者の多くが、成功するどころか、ほとんどひとつの作品すら残さずに消えてしまったのも、無理からぬことと言えます。この当時の受賞者の方には、気の毒だったとしか言いようがありません。
<第5回新世紀マンガ大賞>(少年ガンガン2002年1月号発表)
準大賞 天のおとしもの 住吉文子(18) SUPER TERRORIZER ゴツボ☆マサル(22) 入選 少年×キングダム 西臣匡子(26) 特注レストラン 赤野清(16) ランナー 阿部真由子(18) 佳作 Noel☆Noel 中島みなみ(21) ピカダダの小ネタで行きまショー ピカタダ(23) LAST13 高井幸(18) 地球限定防衛団ワコウ!! 宮本結花(33) 試しのリング 浅川圭二(22) ザ・クマスク 脳筋(25)
お家騒動の余波も冷めやらぬ時代のマンガ賞。しかし、今回は目立った成果が出ます。
準大賞の住吉文子「天のおとしもの」。これは、当初から極めて爆笑度の高いギャグマンガで、ほぼそのままの形でGファンタジーで連載化、大人気を得て雑誌の主力連載のひとつとなります。
もうひとりの準大賞ゴツボ☆マサルは、あのコツボファミリーの次男で(兄は角川系で活躍しているゴツボリュウジ、妹はブレイドで連載したゴツボナオ)、読み切り時代からイカれた作風は健在でした。のちにヤングガンガンで連載を持ち活躍します。ただ、このふたり以外の成果には乏しいのが実情です。入選の西臣匡子は、エニックスでは定着できず、他出版社で主に少女マンガを執筆しているようです。同じく入選の赤野清は、アクの強い作風が魅力でしたが、Gファンタジーで数回読み切りを残しただけで消えてしまいます。
それ以外の作家も、全体的にふるわずに終わっています。このように、路線変更とお家騒動以後のマンガ賞は、優れた新人こそ何人か登場するものの、全体的なレベルがかつてより落ちた感は否めなくなります。
<第6回新世紀マンガ大賞>(少年ガンガン2002年7月号発表)
大賞 BORN AGAIN 壱河柳之助(17) 入選 降霊王 浅川圭司(23) ひねくれ赤児の微笑み 遠野ヤマ(21) 大きな木の下で 福盛田藍子(17) 佳作 しろがねの鷹 矢島トモ子(24) 爪 名取京乃(13) Winter Drop 葵咲万(17) 君に捧げる愛の言霊 こうだ美森(28) 隠れ遊び 加藤ミチル(19) 三次元センセーション 秀フジコ(?)
前回に引き続き、今回も中々の成果が出ます。
まず、大賞の壱河柳之助。彼は、この受賞作も含めて、読み切りに関しては毎回かなりの良作を残しています。しかし、連載マンガに関してはふるわず、ガンガンでの「ファイナルファンタジークリスタルクロニクル」「ブレイド三国志」のいずれもが、成功せずに終わっています。特に、後者の「ブレイド三国志」は、作画のみの担当ですが、その作画の読みづらさに終始し、かつ製作姿勢でも問題発言が見られるなど、かつての大賞受賞者にしては残念な経過を辿っています。むしろ、連載で成功しているのは、入選の遠野ヤマと福盛田藍子です。遠野ヤマは「プラトニックチェーン」(作画担当)、福盛田藍子は「ティルナフロウ」と、ふたりともGファンタジーでの連載がうまくいき、大ヒットとまではいかなかったものの、雑誌の中堅どころの作品として安定したクオリティを残し、連載ラインナップの充実に貢献しました。
一方で、もうひとりの入選受賞者である浅川圭司は、エニックスでは目立った作品を残せませんでしたが、のちにあの「少年ブラッド」で「Dragon Slayer」という怪作を残すことになります(笑)。しかし、実は、今回の最大の成果は、佳作の下で奨励賞どまりだった塩野干支郎次(25)かもしれません。のちに、ヤングガンガンで「ユーベルブラット」という大作ファンタジーでブレイクし、他誌でも数多くの作品を残す人気作家に成長します。
ようやくお家騒動も落ち着いた時期のマンガ賞で、スクエニの次のステップである新青年誌の創刊への端緒が、ここで見られる形となっています。
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