また「誰でもよかった」だ。東京・秋葉原で通り魔事件があったが、今度は東京・八王子で店員の女子大生が刺殺された。無差別殺人が頻発する社会と化した、と認識をあらためねばならないのか。
二十五歳の男が東京都千代田区の秋葉原電気街で七人を殺害したのは先月八日だった。今回は東京都八王子市の駅ビル内の書店で二十二日夜、三十三歳の男が文化包丁で働いていた女子大生を刺殺し、店の客一人を負傷させた。
秋葉原事件の男は自動車部品工場の派遣社員で、八王子事件の男も部品加工会社で働いていたという。
境遇に重なる点がありそうだが、犯行までの行動は異なる。
八王子の男は「仕事がうまくいかず、親に相談したが乗ってくれなかった。むしゃくしゃし、無差別に人を殺そうと決意した」と犯行直前に包丁を購入している。
男の父親は「相談を受けたことはない」と話しているようであり、具体的な動機が分からない。
短絡的な犯行から、「親を困らせたかった」と愛知県でバスジャックした男子中学生や、寝ていた父親を刺殺した埼玉県川口市の女子中学生に近い印象を受ける。
女子大生はアルバイトとして店で働いていて男に胸を刺された。彼女に落ち度は何もない。未来を奪われた被害者と遺族の悲しみや無念さは察するに余りある。
正規、非正規という雇用形態やワーキングプアなど日本社会で格差や貧困の問題が広がり、深刻化しているのは事実であり、解消しなければならない。
それでも、大半の人は不平や疑問を抱きながらもまじめに働いている。社会への身勝手な恨みは他人をあやめる理由にならないし、同情の余地もない。
募らせた恨みや不満が爆発する限界点が以前よりも下がっているのではないかと危惧(きぐ)する。残念ながら、理不尽な無差別凶行は繰り返されるおそれがあり、覚悟して暮らすべきなのかもしれない。
繁華街で刃物を振り回されては歩行者や買い物客は防ぎようがない。秋葉原事件で凶器に使われたダガーナイフの所持を禁止する動きが進んでいるが、刃物を取り締まるのは限界がある。
通り魔対策は難しい。せめて警察は制服警官に駅や雑踏などを多く巡回させてほしい。人の集まる量販店は週末などは警備員を増やして防犯意識を示したい。犯行が衝動的であるなら、制服を見てとどまる効果も期待できよう。
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