北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の非公式外相会合が23日、シンガポールで開かれた。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の場を利用した会合とはいえ、参加国の外相が一堂に会したのは初めてである。
会合ではこれまでの協議の成果を確認するとともに、北朝鮮が提出した核計画の申告書について「迅速に検証履行計画を整える必要がある」との認識で一致した。北朝鮮は支援の着実な履行を主張したという。議論は原則論に終始し、検証の日程や方法など具体策は決まらなかった。
せっかく閣僚が集まったのだから、検証の日程ぐらいは確定すべきだろう。期待はずれの結果である。
米国も認めているように、北朝鮮による核計画の申告書は核兵器に触れておらず、不完全な内容だ。ここで厳しい検証すら怠れば、合意の意味はなくなる。今は申告内容の厳密な検証をいかに迅速に進めるかが緊急の課題である。
今回の非公式外相会合を提案したのは米国だ。ブッシュ政権下で北朝鮮の核問題の外交解決を急ぐ米国が、成果を国際社会に誇示するのが狙いだったのだろうか。
今回の北朝鮮代表団には6カ国協議の首席代表が同行しなかった。米国の内情を見透かし、突っ込んだ議論は避ける思惑が見え隠れした。協議進展を誇示するための外相会合では、北朝鮮を利するだけである。
米国によると、検証計画の草案はすでに協議参加国に提出済みだ。北朝鮮の回答を待って非核化作業部会を開き、詳細を決めるというが、時間はどんどん過ぎていく。
現状では、米政府が議会に通告したテロ支援国家指定の解除が発効する見通しの8月11日以前に検証作業に着手するメドすら立っていない。指定解除が既定路線となりつつあるのに、日本の懸案である拉致問題への対応も進んでいない。
会合では二国間関係の改善や米朝、日朝の国交正常化問題、さらに北東アジアの安保体制も話題になった。安保体制は将来の朝鮮半島の平和構築などを視野に、6カ国協議を常設機関化して地域の平和や安定に寄与させようという米国の構想だ。
構想にも一理はある。中国などは理解を示しており、日本も将来の北東アジアの地政学を見据えた対応がいずれ必要になるだろう。だが、その大前提は北朝鮮の非核化だ。既存の核兵器を盾に「核保有国」を誇示する北朝鮮が容易に核放棄に応じるとは思えない。米国は当面の最重要課題にまず集中すべきだ。