「見識を疑う」と町村信孝官房長官が批判したのも、もっともだ。
司法改革の基盤を整える政策として、閣議決定しすでに実行に移している法曹(司法試験合格者)を増やす計画について「ペースダウンするよう求める緊急提言」を、日本弁護士連合会が採択した。
日弁連は「司法改革を後退させるつもりはない」と言う。だが緊急提言は、弁護士、検察官、裁判官の総数の中期的な目標値「10年後に現在の2倍弱の5万人」も「適正か検討する」としており、法曹増員のペースだけでなく、司法サービスの担い手拡大にも「司法改革の計画は大き過ぎ」との異論をにじませている。
緊急提言は、日弁連が司法改革に消極的な姿勢に転じたしるし、ととらえられても仕方あるまい。
もともと弁護士の間には、法曹増員への反対が根強い。今年2月の日弁連会長選挙で増員反対を掲げた候補が4割を超す票を得たほどだ。
「弁護士が増えて、割の良い仕事が奪い合いになる懸念」が最大の理由だろうと推測しても、的外れではない。人口の少ない地方都市での事務所開業や、刑事事件の国選弁護、民事事件の法律扶助業務など“割の良くない”分野では、弁護士が足りないのが実情なのだから。
日弁連は増員抑制を求める理由に「司法試験合格者の質が増員とともに低下する」「法科大学院を中心とする、法曹の質を確保する養成制度が成熟していない」などをあげる。
「質」の問題は部外者には反論のしようがないが、それが司法試験合格者を増やしたせいで実際に起きているのか検証を経たとは思えない。仮に質の低下が事実だとして、では、どこまで合格者を絞れば質が保たれるというのか。質を問題にするのは、競争激化を心配する増員反対派の本音を覆い隠す方便では、と考えるのは邪推だろうか。
「司法サービスを国民が利用しやすい、身近なものにする」「法の支配を社会の隅々にまで行き渡らせる」。この司法改革の目標を早く実現するのに、まず、在野の司法サービスの担い手である弁護士を早く大幅に増やす必要があることは自明だ。法曹増員のペースを落としてはならない。