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社説:八王子殺傷事件 希薄な人間関係も一因では

 秋葉原の悪夢が覚めやらぬうちに、東京・八王子でまたしても無差別殺傷の惨劇が起きた。突然、命を奪われた被害者や遺族らの無念さや悲しみは察するに余りある。

 通り魔的な犯行はなぜか別の事件を誘発しやすいため、警察もパトロールを強化するなど警戒を強めていた。危険なナイフを規制する銃刀法の改正作業も始まったが、突発的な犯行だけに、防止策は決め手を欠く。

 今年は1月に東京・品川の商店街で高校2年の少年が包丁を振り回して通行人を襲い、3月には茨城県土浦市で指名手配中の男が8人を殺傷した。先月は17人が死傷した秋葉原の事件に加え、JR大阪駅構内で乗降客が次々に腕を切られる事件が発生し、無職の女が逮捕されている。相次ぐ不条理な事件に背筋が寒くなり、二度と繰り返されぬように祈りたくなる。

 秋葉原の事件の後、社会的な要因を探ろうとする機運が高まっている。遅きに失した感はあるが、動機や犯行の引き金となった原因を究明し、再発防止に役立てることが急務だ。

 今回の容疑者も派遣労働者を経験しており、改めて非正規社員の就労構造なども問われなければならないが、労働環境や条件が厳しいからといって犯罪の理由には直結しない。何が容疑者を追い詰めたのか、心理状態などの犯行への影響も明らかにしなければならない。あいまいにすると、勝手に共通点を求める模倣犯が生まれやすくもなる。

 容疑者は「両親が相談に乗ってくれなかった」などと供述した。33歳にもなって理解に苦しむ弁解と映るが、最近は親子関係のきしみから生まれる事件が相次ぐ。愛知県のバスジャック事件で逮捕された少年も、自分をしかった両親に仕返ししたかったと自供した。家庭環境が変化したせいか、親子間の依存と自立をめぐる考え方も変わり、総じて幼稚化している傾向がうかがえる。親は子を守る姿勢を、従来より鮮明に示すべきなのかもしれない。

 容疑者がようやく職を得たものの試用期間中に作業事故で指を骨折したのは気の毒であり、「ツイていない」と思い込んだとしても無理からぬ話だ。だからと言って凶行へと短絡したのは言語道断だが、もし、周囲が親身になって励ましていれば、犯行を食い止めることができたのではないか。容疑者自身も逆境に抗して奮闘している人が多いことなどを知れば、将来に希望が持てたかもしれない。

 人間関係が希薄になる世相を背景に、淡泊な交際が好まれるとばかり無関心をことさらに装ったり、世話焼きを手控える風潮が目につく。その結果、孤独感を深めている人がぬきさしならぬ状態に追い込まれてはいないか。それぞれに人との接し方を点検する必要もありそうだ。

毎日新聞 2008年7月24日 東京朝刊

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