政府の公約である、国・地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の11年度黒字化がこのままでは達成困難なことが、経済財政諮問会議に民間議員が提出した試算で一段と鮮明になった。08年度の成長率が名目、実質とも、政府経済見通しを大幅に下回り、09年度も目に見える回復は見込めないからだ。
最大限に歳出を削減し、成長力強化が進む場合でも、11年度で国内総生産(GDP)比0・7%(約3・9兆円)の歳入不足になるという。今年1月時点の試算が同0・1%だったことを考えれば深刻である。
プライマリーバランスの黒字化は、政府債務をGDPに対して一定水準に維持したり、債務そのものを減少に転換させる本物の財政再建の出発点である。達成目標年次を遅らせることになれば、財政健全化そのものが先送りされることになる。また、赤字国債に依存する比率を一時的にでも引き上げれば、財政規律は一気に緩んでしまう。
いま、政府がやるべきことは、簡単明瞭(めいりょう)である。プライマリーバランス黒字化の11年度達成は何が何でも、やり遂げることだ。同時に、実現の道筋も示さなければならない。
いったん大幅に悪化した財政を正常な状態に戻すことは並大抵のことではない。06年夏に「歳出・歳入一体改革」が決定された時に、政府・与党は歳出削減や成長力強化でも不足する分は歳入増加策で対処することで意見の一致をみた。歳入増加策とは増税のことである。しかも、対象となる税目が消費税や個人所得税であることは間違いない。本来は、11年度に向けてこうした歳入対策を早手回しに講じておかなければならなかった。
現状はどうか。
09年度から基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げなければならないにもかかわらず、政府・与党はそのための財源措置の議論すらできていない。ましてや、プライマリーバランス黒字化のための増税など手がつけられる状況にはない。
景気の後退局面入りも懸念される中、国民負担を増やすことは容易ではないが、10年度や11年度を射程に入れた議論までしないのでは、難問から逃げたといわれてもやむをえない。
政府の無駄をなくすことや、特別会計や独立行政法人、公益法人の徹底した改革は必要だが、それで財政のバランスが回復するほどの財源が捻出(ねんしゅつ)できるとは、とても考えられない。
1、2年間は特別会計などの「埋蔵金」といわれる臨時収入でやりくりがつくかもしれないが、財政健全化は10年程度の期間を視野に入れるべき問題だ。
財政がその機能を回復するという点では、国民のためなのだ。黒字化への決意と方策が必要だ。
毎日新聞 2008年7月24日 東京朝刊