北海道洞爺湖サミット(7月7~9日)の開催が1週間後に迫り、北海道内の警備は最高レベルに引き上げられている。他都府県からの応援組を含めて動員された警察官は約2万人。会場の洞爺湖町のみならず、首脳らが到着する新千歳空港や札幌市内でも厳重な警備態勢が敷かれ、ものものしさは高まる一方だ。民間団体による関連イベントも数多く予定されているが、そもそも警備のしやすさで選ばれた会場だけに、地元の売り込みはかすみがちだ。【高山純二、木村光則】
サミット開催地の洞爺湖畔を29日、高級車を引き連れたパトカーが駆け抜けた。車体には東京を管轄する「警視庁」の文字。要人の移動を想定した警護訓練だった。
洞爺湖町から北東へ約100キロ。札幌市内も主要駅や各国総領事館、繁華街などいたる所に警察官が立っている。05年の英グレンイーグルズ・サミットでは、会場から遠く離れた首都ロンドンが同時多発テロに襲われた。その教訓が、警備当局をピリピリさせている。
「私は○○県警の者なのでよく分からないんですよ」。札幌市内で警官に道を尋ねると、こんな返事が返ってくることが多くなった。北海道警によると、サミット警備に動員された警察官の約4分の3は他県警などからの応援組。混成部隊ゆえの現象だ。
札幌では7月5日に海外の反グローバリズム団体などが集まる「チャレンジ・ザG8 1万人ピースウォーク」が計画されている。事務局「ほっかいどうピースネット」は「5000~6000人の参加が決定済み。参加者には非暴力の原則を呼びかける」としているが、警察側は「一部のグループが暴徒化する可能性は否定できない」とデモのルートに多数の警官を配置する方針だ。
G8(主要8カ国)首脳はサミット会場の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」に泊まる予定だが、拡大会合に出席する中国やアフリカ諸国の首脳の多くは札幌市内に宿泊して車で移動する。このため、期間中、札幌と新千歳空港、洞爺湖を結ぶ道路は交通規制が敷かれる。準備や訓練はすでに始まっており、渋滞も発生している。
期間中は、北海道警の警官約1万1000人の約半分が、サミットの警備に就く。警察署や交番が手薄になることから、来月9日までは警察OBの687人が、道内92カ所の交番にボランティアの「交番協力員」として立つ。
関係者が心配しているのは当日の天気だ。G8首脳は7月6日から7日午前に新千歳空港に到着し、大半は陸上自衛隊のヘリコプターで会場の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」(洞爺湖町)に移動する予定。しかし、霧が濃くなればヘリは飛ばせない。陸路の移動に切り替えればテロの標的になる危険が増すためだ。
札幌管区気象台によると、7月6日の洞爺湖周辺の天気予報は曇り時々晴れで降水確率30%。霧は予測できないが、「例年、7月上旬は暖かく湿った空気に乗って太平洋から海霧が流れてくる傾向が強い」という。道路封鎖や多数の警官動員を避けたい道警幹部は「天気がいいことを祈るばかりだ」と話す。
先が読めずに困っているのは、北海道の募集に応じG8首脳と交流する「未来への夢、世界との絆(きずな)」プロジェクトに申し込んだ道内20市町村も同じ。各自治体とも「おらがまち」を国内外にPRしようと構えるが、実現の知らせがなかなか来ない。
00年の九州・沖縄サミットでこの交流事業が実ったのは沖縄県内の6市町村だけだった。今回は「2~3カ国が検討しているが固まったとは聞いていない」(外務省)と、狭き門になる見通し。各市町村は「歓迎する準備はほぼ整った」(壮瞥町役場)と吉報待ちの状態が続いている。
サミットの開催に合わせ北海道内では、民間主体の国際会議も開かれる。アイヌ民族が米国、カナダ、オーストラリアなどの先住民族に呼びかけて初めて開催される「先住民族サミット」(平取町など)などがその代表例だ。一方で、道の公式イベントは財政事情から控えめだ。
「会場を決める際には(サミットの)議長をやるつもりだったが、計画通りにはいかない」。安倍晋三前首相は今月23日、札幌市での講演で残念がった。
サミット会場選定の際、安倍内閣が重視したのは警備のしやすさだった。財政状況から誘致に慎重だった高橋はるみ知事は決定後、「コンパクトサミット」を掲げ、07、08年度予算に盛り込んだ関連経費は計約22億円。00年のサミットで沖縄県が支出した約110億円の5分の1に抑えた。
このうち、半分以上の約12億円は警備関連。歓迎行事やPR活動などは民間企業とつくる「サミット道民会議」に委ね、道民会議の08年度予算2億8770万円の大半は、民間からの寄付に頼る。このため、道関連の企画イベントも開幕日の夜に電気を消し、ろうそくの光の中で地球環境問題を考える「ガイアナイト」など、カネをかけない緊縮路線になっている。
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■主なサミット関連行事■
大学サミット(6月29日~7月1日・札幌市)
G8諸国などの大学長が集まり「持続可能性」など討議
先住民族サミット(7月1~4日・平取町など)
アイヌと海外の「先住民族」が集まり国連の「先住民族の権利に関する宣言」実現の課題を議論
ジュニアサミット(7月2~9日・支笏湖など)
G8のほかアジア、アフリカから中高生が集まり気候変動や貧困と開発の問題を議論しG8首脳に提言
アイヌ民族サミット(7月5~6日・札幌市)
全国のアイヌ関係団体の代表が集まる
市民サミット2008(7月6~8日・札幌市)
国内外のNGO関係者ら約3000人が参加し環境や貧困問題など約50本のシンポジウムや学習会を開催
毎日新聞 2008年6月30日 東京朝刊