厚生労働省が発表した二〇〇八年版労働経済白書は、正社員の絞り込みなど一九九〇年代以降に企業が行ってきた人件費抑制策の問題点を指摘し、賃金格差是正などによる働きがいある社会実現を訴えた。
白書は、失業率は一時より改善したものの、パート、派遣、契約社員など非正規社員は増え続けていると記す。総務省の労働力調査では、雇用者に占める非正規の割合は今年一―三月の平均で34・0%と、ほぼ三人に一人になっている。
白書はパート労働者を例に、本人がこの雇用形態を選んだ理由を分析する。「正社員に転職したい」とした女性(短時間パート除く)が〇一年の30・4%から〇六年に41・3%に増加した点などから不本意ながら非正規社員として働く人が増えているとし、こうした人たちの不安や不満は大きいとした。
多くの企業が導入している業績・成果重視の賃金制度についても、その結果中高年層で賃金の格差が広がっている実態などを指摘し、企業が職業能力向上の措置を十分講じないまま適用している例もあるとした。これらを踏まえ、業績・成果主義は「必ずしも成功していない」と述べている。
〇七年、三年ぶりに労働者の現金給与総額が減少したことや原油高などに伴う物価上昇なども記した上で、白書は働く人たちの意識に言及する。〇六年の調査で、仕事に満足と答えた人は全体で35・3%と三分の一強にとどまる。特にやむなく非正規で働く四十〜四十九歳の年齢層では24%にすぎない。
労働の現状を踏まえ、白書は正規雇用の拡大、賃金上昇などを産業界に求める。業績・成果主義についても労働意欲向上につながる部門に限定しての活用や評価基準の明確化など、運用の改善が必要とした。
多くの企業が実施し、業績回復に寄与した人事システムに白書は疑問を呈した。経済界の努力が大切なのはもちろんだが、米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発した世界的金融不安や原材料高で、国内の景気は難しい局面にある。非正規社員の正規化や労働者への配分増加といっても簡単ではない。中小零細企業の場合は、なおさらだろう。
非正規社員の増大は、産業界の求めに応じ規制を緩和してきた政府の政策の結果でもある。格差社会批判の高まりを受け、政府は方向転換を図りつつあるが、これまでの政策を検証することがまず必要だろう。その上で、正社員化を進める企業の支援策など、格差是正を促す政策の充実が求められる。
北京五輪の開幕が来月八日に迫った中国で、二台の通勤バスが相次いで爆破され、多くの死傷者が出た。治安悪化への懸念が高まる。
爆発があったのは雲南省昆明市で、一台目は午前七時すぎ、二台目はその約一時間後だった。二カ所は直線距離で約三キロ離れていた。
雲南省公安庁は硝酸系の化学物質を使った爆薬が用いられたと指摘している。男が車内の座席下に黒いビニール袋のようなものを置き、バス停で下車した後、爆発が起きたとの目撃情報もある。これまでのところ、恨みなどを理由にした個人的な犯行との見方が強い。しかし、計画的なテロの可能性は残る。
中国当局は、五輪開幕を控えて警備態勢を強めていた。特に北京市内の警戒は厳重で、警察のほか、軍系の武装警察やボランティアら数十万人を動員する。空前の厳戒態勢が敷かれているだけに、狙われるなら警備の手薄な地方といわれていた。
五輪成功に国家の威信をかける中国指導部は「平安奧運(平安無事な五輪)」を最重要課題に掲げ、万全な治安を目指して総動員態勢で臨む方針だ。無差別の爆弾事件やテロは決して許されない。五輪の安全確保へ警戒を怠ってはならない。
懸念されるのは、人権や民族問題を抱える中国で、五輪開催に反対する勢力の動きが活発化していることだ。三月に、新疆ウイグル自治区で独立勢力による航空機爆破未遂事件が発生している。地方では、公安当局の不正のほか、貧富の格差拡大などで住民に不満がうっせきしているといわれる。
当局が力ずくで不満の押さえ込みを図っては反発が強まるばかりだろう。国民の不満を解消する真剣な取り組みが治安の安定に欠かせまい。
(2008年7月23日掲載)