韓国社会の過剰反応 国際紛争化させる原因に
「独島(日本名・竹島)論争」は、つい最近始まったものではない。今以上新たな論争点を見つけることは困難なほど、論争は繰り返されてきた。独島論争は特異な現象をともなう。韓国社会の過剰反応だ。韓国は独島を実効支配しており、日本が武力によって収奪しない限り紛争にはならない。しかし、「独島」と聞くと、全国がいっせいにわめきだす。皮肉にも、韓国社会の深刻な反応が、かえって独島問題を国際紛争化させる原因になっているといっていい。
(ソウル・李民皓)
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元軍人も激しい抗議行動を行った(16日、ソウル日本大使館前) |
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韓国社会は世代や社会的地位によって、諸問題に対する意見が分かれる傾向が特に強いが、独島問題において、国民の意見が割れることはない。保守も革新も、マスコミ各社も、与野党ですら、みな同じだ。
独島が韓国社会で問題になるのは、決まって日本から何らかのアクションがあった後だ。
日本の政府高官が「竹島は日本の領土だ」と一言発しただけで、夜のテレビニュースと翌日の朝刊の見出しは決まるといっていい。日本の高官の“妄言”は、「韓国に対する挑発」として受け取られる。
独島問題が大きな関心を集める背景には、韓国左派の存在がある。
理念を問わず、独島問題は、韓国人にとって大きな関心事だ。特に、親北朝鮮派が中心となった韓国左派にとって、独島は自らの存在を示し、求心力にもなる争点だ。
親北派は、米国と日本に強い反感を抱いている。反米・反日こそ親北派の理念的な正当性を示す確固たるテーゼだ。今なら李明博大統領と保守政権をたたく格好の材料にできるという点も、親北派にとっては都合がいい。
親北派は「保守政権は領土の保護に消極的」と主張する。「李明博が独島を日本に売った」という、根拠のない“独島怪談”まで吹聴して回っている。
“怪談”が出はじめたのは、政府が米国産牛肉の輸入再開を決めた時期と一致している。テレビで「米国産牛肉を食べると『人間狂牛病』にかかる」と報じられた直後だ。
韓国のインターネットサイトで「独島」、「李明博」と検索すれば、5月初旬、狂牛病問題と同時に問題提起されていることを簡単に知ることができる。
反米のための「BSE騒動」と反日のための「独島問題」。タイミングが合ったBSE騒動は拡大したが、独島問題は“怪談”として処理された。
BSE反対デモがようやく鎮静化しつつあった今になって、独島問題は再び頭をもたげはじめた。
問題発生のきっかけは、日本政府が学習指導要領の解説書で、独島を取り上げたことだ。記述内容は「我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違がある」ことなどにも触れ、「北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」というものだった。
騒ぎを大きくしたのは読売新聞だった。洞爺湖サミットの際、解説書への独島領有権明記を伝えた福田総理に、李大統領が「待ってくれ」と言ったという報道だ。
日本の対応は、韓国の親北派の格好の攻撃材料になった。
一貫して現政府批判を続けているMBCは16日、夜のニュース番組で「読売の報道が事実なら韓国の大統領が憲法に違反したことになります。真偽を糾明しなければなりません」と言った。
コメントの行間には、独島問題に今後もより大きな関心を寄せるべきだという考えが見て取れる。憲法の領土条項にある「領土守護義務」を大統領が違反したと指摘したためだ。
一方、保守派としても過度の日本批判を行う理由はある。
独島問題に少しでも弱腰な態度を取れば、韓国中から非難の的にされるという恐れがあるからだ。親北派が政府与党を囲んでいるという状況も、政府が日本批判に躍起になる理由の一つだろう。
李明博政権とハンナラ党は、執権当初からBSE騒動で深刻な打撃を受けてきた。独島問題で「手ぬるい」と思われるような態度を見せたら、マスコミや学界、市民団体から集中砲火を浴びるのは目に見えている。
保守派の政治家に選択肢は多くない。
対日批判は対北批判に比べ、“安全”だ。
親北派から攻撃されることはなく、むしろ評価され、国民からの支持も受けられる。失うものは何もない。独島や歴史教科書歪曲の波紋が広がれば、与野党関係なく議員から超強硬発言が飛び出すのは、人気を得るための絶好の機会だからだと解釈できる。
政治家だけではない。朝鮮・中央・東亜の保守系3大日刊紙も同じだ。
3紙は「日本の植民地時代には、当局に加担した」といわれ、親北派も「親日」をもって非難している。
李明博政権は15日、駐日大使を本国に召還したのに続き、17日には外交長官級会談を行おうという日本の呼びかけを断った。6カ国協議での協助見直しなども明らかにされている。前例がないほどの強硬姿勢といっていい。
韓国政府はどこまで強硬姿勢を貫くのか、当の韓国政府ですらわからないだろう。
「日本糾弾」のプラカードを手にしているが、中長期的なビジョンをもとに動いているとはいえない。世論に突き動かされているといった方が的確だ。
韓国政府の反応は、日本政府が今後どのような行動をとるかにかかっている。
対日強硬策をとる韓国政府 次々と「外交圧迫」
李大統領「戦略的・長期的に対応」
独島(日本名・竹島)領有権をめぐり、韓国政府は日本に対して強硬策をとっている。
最初の措置は外交的圧迫だった。韓国政府は、22日にシンガポールで開かれるアセアン地域安保フォーラム(ARF)で予定されていた韓日外相会談を中止する方針を固めた。柳明桓外交部長官はARFで米中ロなどとは会談を持つ予定で、日本だけを対象から外した形だ。
政府はまた、日本が独島問題解決に応じる姿勢を見せない場合、国際会議で日本との協力を拒否する方向で意見を調整している。
日本政府への抗議のため、韓国に召還された権哲賢駐日大使は17日、外交部庁舍で記者会見を開いた。
「6カ国協議の場で、北朝鮮の核、ミサイル、拉致問題などに対し、韓国政府はある程度日本の意見に同意してきた。これは韓日新時代を開くための協力の過程だったが、国内の対日世論が悪化したり、政界から協力に反対する声が強くなったりする場合は、そちらを反映するしかない」
韓国は6カ国協議で、拉致問題などについては日本と歩調を合わせてきた。権大使の発言は、拉致分野での韓日協力見直しを示唆するものと解釈されている。
ハンナラ党の鄭夢準議員は17日、日本側に韓日漁業協定の破棄を通知すべきと主張。青瓦台は鄭議員の主張を考慮しはじめているという。
一方、李明博大統領は18日、就任後初となる国家安全保障会議(NSC)を招集した。議題は日本の独島領有権主張と金剛山観光客射殺事件への対応だった。
李大統領は会議の場で「日本政府には断固として対応するが、場当たり的で一過性の強硬対応だけでなく、戦略的・長期的視点でち密に対応すべき」と述べ、民間の研究機関への支援や、韓日中3カ国による共同研究の推進を図る考えを明らかにした。 |