今回のR35GT-Rによる十勝24時間レース挑戦を総括してみよう。

Text: Katsuhide Sugino
Photo: Takahiro Masuda



一発の速さはすでに十分!
まず、R35GT-Rは速かったかどうか?
今回の十勝24時間レースには予選がないので、19日に行なわれたフリー走行の結果を見てみる。

第15回十勝24時間レース 2008/7/18(金)フリー走行
天候:曇 | コース状況:ドライ | 十勝インターナショナルスピードウェイ 5091.45m
ClassNo.CarBest Lap
ST1#50PETORONAS SYNTIUM BMW Z4 COUPE2:08:145
EC2#24ヨコハマ eco MOTION Z sato2:10:819
IP4#35MOTUL NISMO GT-R 2:12:748
ST2#20RSオガワADVANランサー2:14:038 R
ST3#27FINA ADVAN M32:17:410
ST4#51AYG ings イングラ2:21:790
※Rはコースレコード

クラストップのベストタイムを並べてみたが、十勝を2分12秒台で走ってしまう#35 Motul Nismo GT-Rの速さは、目を見張るものがあった。
今のところ、R35 GT-Rはレギュレーションでパドルシフトが禁止されているスーパー耐久に参戦できないが、排気量的にはST1クラスに属する。そのST1クラスではBMW Z4が2分08秒台のトップタイムをマーク。#35 Motul Nismo GT-Rとの差は、4秒半ほどある。
しかし、S耐マシンはスリックタイヤを使用し、エンジンのフィンチューニング、前後スポイラーの装着も可能。おまけにブレーキもキャリパー交換などがある程度の範囲で認められている。対する#35 Motul Nismo GT-Rは、空力部品は完全ノーマル、エンジン&ミッション、ブレーキもキャリパー&ローターはノーマル、今回は溝つきのSタイヤ装着という違いがある。
パドックの関係者の話によると、SタイヤをR35 GT-Rに合わせたスリックタイヤに換えるだけで、3秒は速くなるのではという。ひとつ下のクラスのランエボ、インプレッサが属するST2クラスと比べると、すでに1秒半以上速い。ランエボのドライバーの1人は「R35 GT-Rが、まさか12秒台で走れるとは思わなかった。速すぎるよ」といっていた。一番排気量の小さい、シビックR、インテRの属するST4とでは、なんと9秒ものラップタイムの差がある。

本気で勝ちに行くなら別の仕様を選ぶはず
そもそも#35 Motul Nismo GT-Rの十勝24時間レース参戦の目的は、「発売予定のNISSAN GT-R用ニスモオプション及びMOTUL社と共同開発しているコンペティションオイルのレースフィールドにおける性能、耐久性の確認を目的とするテスト参戦」(ニスモのリリースより)だった。ロールバー、安全燃料タンク等のレース参戦に必要な安全装備を装着し、今後ニスモが発売を予定しているホイール、マフラー等を装着した車両で、エンジン、トランスミッション、ブレーキなどはロードカーのままという仕様。ロールバーは点数が多いもののボルトで取り付けられ、スポット増しなどのボディ補強は一切ない。ストリート用マフラー+触媒により、R35の排気音はひときわ小さかった。いうなれば、チューニングカーで24時間レースにチャレンジしたといっていい。

想定外の安全タンクのトラブル等があり、結果的には総合21位に終わった。「リザルトで、シビックより遅いGT-Rでは逆宣伝なのでは?」という厳しい意見もあった。しかし、今回の挑戦は勝つためのレース参戦ではなく、あくまで「性能、耐久性の確認を目的とする」もの。もし、最初から優勝狙いなら、最低でもロールケージを溶接し、軽量化したモノコックの『プロダクションカーレース仕様車』を投入していただろう。

耐久でなくてもレースに勝つということは甘くない。S耐・ST3クラスのZ33フェアレディZもデビューした2003年には、格下クラスのS2000やDC5インテグラ タイプRに後塵を拝していたこともあった。その後、Z33のユーザーが増えてきて、M3やNSX、RX-7と互角に戦えるようになった。開発が進み、トラブル対策が出来てやっとレーシングカーとして進化できる。今回のR35 GT-Rは、初めてのレースであり、完走してデータを残すのが目的。それをリザルトだけで語るのは、酷というものだ。

思い返せば、1990年の仙台ハイランドにR32スカイラインGT-RがN1耐久レースにデビューした際、事前のシミュレーションでは、コースコンディションがドライならばEF9シビックに勝てないと出ていた。1周のラップタイムは速くても、燃費が悪くタイヤも持たない、さらにはブレーキパッドとキャリパー&ローターの交換も必要だったのだ。ピット回数の多いGT-Rと格下のシビックとのバトルは、まさにウサギとカメの競走。しかし、あの日は天が味方をしてくれた。決勝日の朝には季節外れの雪が降り、レース前半はウエットコンディション。燃費やブレーキそしてタイヤコンディショも楽になったGT-Rがデビュー・ウインを達成できた。GT-Rだからこそファンの期待も大きい、しかし決して常に楽に勝ってきたわけではないのだ。

エンジンとトランスミッションはノートラブル
それよりパドックで「エンジンかミッションが壊れてリタイヤするのでは」と予想されていたR35 GT-Rが、燃料タンクに始まり、ドライブシャフト、ハブボルトなどのトラブルを次々と克服。ドライブシャフトやハブボルトの交換は、S耐レースではどのマシンでも起こりうること。それより完全ノーマルのエンジンとミッションで、ノートラブルで24時間を走り切ったことが、R35 GT-Rオーナーにとってどれだけ安心材料となったことか。
今回のレース車には、発売予定のNISSAN GT-R用ニスモオプションの他、近い将来に発売される「スペックV」用のパーツが組み込まれているのではないかと予想するメディア関係者もいた。その真相は今のところ不明だが…。基本的な部品は、少なくとも一般のスポーツ走行には十分な性能と耐久性を持っていることは確認できた。

レース中は、貴重なデータを収集するためにドライバーにラップタイム指示を出し、ドライバーもそれに従って淡々とラップ重ねたという。
レースに“タラレバ”はないが、もし想定外の燃料タンクとハブボルトのトラブルがなかったら、あと35周はラップを刻めたはず。すると12位くらいのリザルトは残せただろう。

一発の速さは現状でも十分なレベルに来ている。そういう意味では、今回の十勝24時間レース挑戦は、R35 GT-Rのポテンシャルの高さを十分に証明できたといえよう。レギュレーションの変更が必要だがスーパー耐久に参戦できれば、多くのファンはきっとGT-Rを応援してくれるはずだ。