削られたような落書きが多数ある延暦寺の文殊楼=大津市坂本本町
落書きされた原爆ドームの壁。現在は消されている=01年12月、広島市中区
世界文化遺産に登録されている建物の築地塀に今春、落書きされた=京都市内
各地の名所・旧跡で落書きが相次いでいるのを受け、朝日新聞が国内11の世界文化遺産を構成する建物など計62件について管理者や教育委員会などに実態を聞いたところ、回答した57件のうち4割にあたる23件が落書き被害に遭っていた。多くが犯罪である落書きの根絶に取り組んでいるが、最も効果的なのは「きれいにして、落書きをしにくくすること」のようだ。
「山中」「WAKAYAMA」「八戸」……。世界文化遺産「古都京都の文化財」の一つ、比叡山延暦寺(大津市)の文殊楼の壁や柱には、おびただしい数の落書きがある。鋭利な物で削り取る手口が大半で、修復するには建て替えるしかないという。
姫路城(兵庫県姫路市)の白壁には96年、黄色のペンキで実在の人の名前や住所などが書かれた。原爆ドーム(広島市)には01年、外壁に人種差別に反対する趣旨の英語の落書きがされた。
落書きは犯罪だ。世界文化遺産の多くは国の重要文化財や史跡に指定され、落書き(損壊)は文化財保護法に基づいて5年以下の懲役もしくは禁固または30万円以下の罰金に処せられる。文化財でなくても、一般には刑法の器物損壊罪が適用され、罰則は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料だ。
ただ、文化財保護のためには、罰則よりも落書きをさせないことが大切。一般的な対策は、壁際に近づけないようにロープを張ったり、さくを設けたりすることだ。警報器や監視用カメラを設置しているところも多い。それでも被害は絶えないという。
「とにかくきれいにすることが大事」というのは仁和(にんな)寺(京都市)。くぎのようなもので二王門付近の土塀などに名前や日付を刻みつけられることが多かったが、05年に塀を塗り替えたところ被害はなくなった。担当者は「落書きが一つでもあれば、自分もやってしまえという心理が働くのでは」とみる。