CMU教授 金出武雄先生「私はこうして50人のドクターを育てた」

NAISTでカーネギーメロン大学 U.A. and Helen Whitaker Professorの金出武雄先生の講演がありました。ログを取ったので公開します。

ご自身でプレゼンにうるさいと言っているだけあって、非常に素晴らしいプレゼンテーションでした。冗談を入れてくるタイミングが非常にうまく、引き込まれて行くのを感じつつもう止まらない・・・という至福。

個人的には、金出先生の業績の代名詞であるLucas-Kanade trackerのお話が面白かったです。学生さんだったLucasさんと共同で作ったのは良いものの、金出先生はあまり価値のないものだと思い、適当な学会に出しただけだったとか。それが未だに引用され続けているのは不思議な話だ、と言われていました。金出先生をもってしても、研究の価値を計りかねることがあるというのは意外。それでもちゃんと発表して世に出したから今の評価があるのでしょう。どんな成果でも世に問うことは大切かもしれません。

他にも、実装だけの研究にも、十分価値があると言われていたのが印象的でした。「たとえ理論が既存のものであっても、実装で10倍速くなったなどの成果が出れば、その高速化の理由がわからなかったとしても十分意味がある」と言われるなど、Workするものを重視する、金出先生の価値観がにじみ出ている内容でした。

金出語録
成功するにはかわいくないといけない

かわいいのは大事です。

金出武雄先生講演

講演メモ

アメリカの博士課程について
アメリカの博士課程は一貫課程(途中で修士をもらうことも可能)
修士コースのみは職業技術養成課程
学位は「私的」なCertificate
課程、学位、学科の科目などは自由に設定可能
「誰を育てたか」は教授個人や学位の重要な評価軸
院生は研究プロジェクト遂行の重要な「スタッフ」
学生なしに大学の教育は存在しない
そのなかで教育が行われる
教官のプロジェクト資金から院生の授業料・生活費が引き出される
CMUは私学のため、指導学生一人に毎年$80k〜100k
大学に奨学金が払われる
教員から見れば「投資」
大学院生も自分に投資されていることを知っている

金出先生の学生になるまで
アドミッション
試験はGREのみ
すべて書類選考+電話インタビュー

ロボット研究所ではAdmission Committee (教官3〜5, 学生2〜3人で構成) が選択の(ほぼ)全権を持つ
一般学科はAdmission CommitteeはQuality Controlと調整役 (あまり成績がひどいようなら口を挟んでくる)
基本的には個々の教授が個々の学生をAcceptする

狭き門
学生・教授の両者にとって狭き門
CSやRoboticsのように人気のある学科の場合
Acceptしても他の学校に行かれてしまう
志願者(100%)->Accept(5〜10%)->Enroll(その50%)
CS 400人->60人->25人
Robotics 300人->25人->15人
学科で異なる選考過程

学生は複数の大学に志願しているので良い学生は奪い合い
正体Visiting、勧誘電話、時にはOffer条件の交渉まであり

レコメンデーションレター重要
具体的に書かなければいけない
良いことばかりではなく、少しは悪いことも書いてあるくらいが良いバランス
自分で書いてしまうのはすぐにばれる

学生-指導教官の決め方
CS, Roboticsの場合
アドミッションだけではまだ誰が指導教官か決まらない
Immigration courseで先生が自分の研究室を売り込む
先生が”Marriage” proposalを書く
一般的学科
Admission時から決めている
衝突はAdmission Committeeが調整

他大学の学生から熱烈なアプローチがあることも
見込んだヤツがきちんと当たって良い学生だと嬉しい

PhDになるまでのRequirement
Subject, Research, Speaking/Writing
TAがかなりの負担

研究
はじめは先生に提示された研究をやってみる
Thesis Proposal, Thesis Research , Thesis Document, Public Defense
期間は人によりけりで3〜8年
Yieldは意外に低い
Roboticsで100人入って学位を取るのは80人くらい
やめてもらう仕組みもある
辞め方も様々
見込みがないから辞めてもらう場合
見込みがないことに気づくいて自分から辞めて行く場合

学生評価
CS/Robotics
Black Friday
年2回の全教官合同会議による全学の評価会
評価 SP, USP, n-1, termination

一般的学科の方式
基本的には教授の一声
成績、資金(教授のお金がなくなったから辞めてもらう場合もある)

指導教官と学生の関係

指導: 指導する-される
教授としての高い知のプレッシャー
本の宣伝キター!!
アメリカはできるところを見せておく必要がある
どこまで自分の好みを押しつけるべきか

雇用: サポートする-される
雇用者としての「従わせる」プレッシャー
学生は非常に素直
学生が「〜して良いか」と頻繁に聞いてくる
プロジェクトの要求をどこまでさせるべきか
学生の時間を奪ってしまうことを肝に銘じておくべき

友達: お互いの存在を楽しませる-楽しむ
同輩としての「好かれる」プレッシャー
First name basisの関係

教授の息子や娘は簡単に大学に入れる
アドミッションにちょっと交渉すれば入れる

H.T. Kungの「学生発達理論」
教授は神様->意外と出来ないヤツ->それだけのことはある

金出先生は学生をどう育ててきたか
良い研究とは何か
“Good science is in the real world problem”
Alan Newell

「役に立つか」「本当に働くか」
“Newness is not virtue, usefulness is “.
“There are more new things than old ones”.
「新しいこと」はたいてい誰かが考えたけれどつまらなかったこと
“Anything that works is OK.”.
“People remember those who made it really work first, not those who said it first.”
「新しいこと」よりも「良いこと」を

研究テーマ
研究の「メッセージ」「ストーリー」を大事にする
こうして、ああして、こうなって
夢がふくらむ
話せば話すほど、話が大きくなる
後付も良くある(後から考えたストーリーもOK)

Multi based-line stereoから話が発展
部屋も3次元化
「NBAをコートで見る」をキャッチフレーズにし続けた
実際にスーパーボウルでコート全体を3D化

NFSからTransformativeなことを求められた際に気づいた
システムに求められるのは、人の機能を代替することではない
システムが人を助けるのは、人の能力をオーバーしたときだけ
System’s Help = Person’s Intent - Person’s Capability

First-Person Outside in vision
外界からシステムがその人の思考や興味を知ることはできない

人を納得させるのはDetailsとQuantityである
金出語録
“Overwhelm the audience (by details and quantity)”
圧倒しろ
“If people ask how your method works, they are not convinced yet. If they were, they would ask ‘how much is your program?’”

“Science is Detail”

プレゼンにうるさい
研究の価値は人がわかってなんぼのもの
下手なプレゼンテーションは研究の価値を減らす
ストーリーが一貫して記述されているか
日本の論文は〜は重要である、と書いたのにそのことを書かない場合がある
先行研究を否定する必要はない
たいしたことないことを大きく見せる必要はない
聴衆心理学を講義する
こう書いたらどう思うか、を考えろM”A paper must be a mystery story, and its presentation is its dramatization”
“Don’t expect that your audience is eager to listen to you”

テーマ・分野・アプローチ
強い好みはあるが固定しない
しつこく続けてあきらめない
まず例題をやらせてみることで、最後までの見通しをひとまずつかせる
極端を試す、考える

Lucas-Kanade tracker そんなに評価されると思わなかった
最初はただテーラー展開したら良いことが起こっただけど思った
変な学会に1回だけ出した
その論文が未だに出回っている

いろいろな学生
できる学生、何でもどんどんやる学生
何でも聞く学生、何でも訊く学生
先生の感覚を学生にどう伝えるか

結論
教官本人が楽しむ*ことをしなければ、学生はついてこない
*「楽しむ」とは何か
Positiveに知的成果に「素直に」興奮すること

質疑応答
良くできる学生はどんな人間か
しつこい
人がよい
知識を関連づけられる

論文の書き方
無駄なdefinitionは省く

成功するにはかわいくないといけない

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