バブル経済崩壊後、企業が相次いで導入した業績・成果主義的賃金制度は正社員の働く意欲を低下させている−と二〇〇八年版労働経済白書は指摘した。労働者を大切にする経営に立ち戻るべきだ。
人口減少時代の日本が今後も成長するには働く人が意欲を持ち生産性を高めていくことが大切だ。白書はまず「働く人の意識」を分析し、企業が取り組むべき課題を示した。
日本の労働者は今、低賃金と長時間労働、パートや派遣といった不安定雇用の増加など苦しい状況に置かれている。白書によると「仕事の満足度」では雇用の安定や収入の増加、仕事のやりがいなど、ほぼすべての項目が一九九〇年代以降、悪化しているという。
満足度低下の理由は正社員として働ける会社がないため非正規社員となった人が増加したこと、正社員では業績・成果主義の拡大で賃金が抑えられたためである。
とくに正社員では五十歳代の長期勤続者の意欲低下が目立つ。成果主義の導入で「賃金が低い」とか「評価が納得できない」「職場のコミュニケーションが円滑でない」などを不満としている。
もともと成果主義は業績への労働者一人一人の貢献度を反映した賃金を決めることで、仕事への意欲を高める手法である。
ところが成果主義は結局のところ単なる人件費抑制に使われた。企業は利益を内部留保や株主配当、役員報酬などへ振り向け労働分配率を減らし続けた。これでは正社員でもやる気を失うだろう。
成果主義の問題点は昨年の白書でも「長期雇用の中で培われてきた経験や能力を正当に評価することが重要」と指摘していた。
今年はさらに「評価基準がばらばら」で「説明も不十分」と踏み込み、同制度は「必ずしも成功していない」と明記した。企業はしっかりと見直すべきだろう。
もうひとつの課題は非正規社員の増大である。企業は国際競争力の強化に全力を挙げた。コスト削減は当然だが、人材投資まで減らしたことは失敗だ。白書が指摘する「長期雇用の重要性」を再確認すべき時期である。
政府にも注文がある。行き過ぎた労働法の規制緩和を見直すことだ。パートと正社員との均衡待遇や日雇い派遣の原則禁止に続き、契約社員などの有期雇用にも歯止めをかける。中小企業に配慮しつつ「雇用の安定」つまり正社員化を推進することが重要である。
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