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更新:7月22日 10:40インターネット:最新ニュース

若者のテレビ離れは怖くない・テレビ復活のカギは高齢者

 先月、米国でショッキングな調査結果が発表された。全国テレビ放送を行っているネットワーク局の視聴者の平均年齢が初めて50歳となったというのである。日本でもネットメディアを中心に報道され、若者のテレビ離れ、日本のテレビも終焉が近いといった論調が目立ったが、事はそう単純ではない。

 背景にあるのは、先進国に共通した高齢化という深刻な社会構造の変化である。逆に言えば、社会の構造変化を踏まえた対応をすれば、テレビは復活できることを示している。(岸博幸の「メディア業界」改造計画)

■社会全体の高齢化に対応せよ

 まず、マグナ・グローバルという調査会社が先月発表した調査結果を見てみよう。ネットワーク局の番組をリアルタイムで見ている視聴者の平均年齢が調査開始以来初めて50歳の大台に乗り、録画して後で見る人を含めても平均年齢は49歳であった。ちなみに、リアルタイムの視聴者の局ごとの平均年齢は、

CBS:54歳
ABC:50歳
NBC:49歳
Fox:44歳
CW :34歳

 であった。比較のためのデータとして、米国の世帯の平均年齢は38歳ということも付記されている。

 この調査では、主な番組別視聴者の平均年齢も出しているが、昼間のニュース番組は65歳以上、CBSのドキュメンタリー番組「60 Minutes」は60歳、若者に人気があると思われていた夜のトークショーの多くも50歳代という結果であった。

CBSのウェブサイト

 この結果だけを見ると、テレビは広告主が最も好む20〜34歳、35〜49歳といった層を取り逃しているので、若者のテレビ離れやテレビの衰退といった論調が出るのはやむを得ない。しかし、その根底には高齢化という社会構造の変化があることを忘れてはいけない。米国は比較的若い国であるが、それでも高齢化は進んでいるのである。

 具体的なデータを挙げよう。米国の世帯の家長の平均年齢は49.5歳である。そして、今後5年間で増加する世帯数の約80%は、家長が55歳以上の世帯であると予測されている。

 ちなみに、残りの20%は家長が25〜34歳の世帯なので、最も収入と支出が大きくて広告主にとって魅力的な35〜54歳の世帯はほとんど増えないことになる。さらに言えば、ベビーブーマーの高齢化に伴い、今後5年間は65歳以上の人口が毎年100万人以上増加するが、これは過去5年の2倍以上の数字である。

 すなわち、テレビの視聴者の平均年齢の上昇は、こうした高齢者の増加という事実と若者のテレビ離れを反映したものであり、ある意味で当然のことを言っているに過ぎない。それよりも注目すべきは、若者のテレビ離れに対してはクロスメディアプラットフォームの確立という形で対応しているテレビ業界が、高齢化という社会構造の変化にどのように対応していくかであろう。その対応次第で、テレビという最も影響力を持つメディアが衰退するのか、それとも再生するのかが決まると言っても過言ではないだろう。

■日本のテレビ視聴層は米国より高齢か

 それでは、米国以上に高齢化が進む日本のテレビ視聴者の平均年齢はどうなっているのだろうか。残念ながら、そうした数字は計測されていないが、高齢化の進行状況の日米比較から、ある程度は推察できる。参考になりそうな数字の日米比較を列挙すると以下のとおりである。

 

■人口構成の日米比較(出展:米戦略国際問題研究所、2030年は予測値)
  日本米国
年齢中央値2005年42.9歳36.0歳
 2030年52.3歳38.6歳
老年人口比率(65歳以上)2005年19.70%12.30%
 2030年30.80%19.10%
平均寿命2005年81.9歳77.4歳
 2030年85.2歳80.7歳

 当たり前のことであるが、日本では米国を上回るペースで高齢化が進んでいる。このデータだけからは、日本のテレビの視聴者の平均年齢は米国以上に高い可能性もあるが、一方で、日米の若者の行動パターンの違い、日本に根強い“ながら視聴”(家に帰ったら寝るまでテレビをつけっ放し)などの要因も考慮すると、意外とそれほど高くない可能性もある。米国と同様の調査が日本でも行われることを期待したい。

■ピンチはチャンスという発想が必要

 ところで、最近は日本のテレビ局も広告収入の落ち込みによる業績悪化を受け、役員報酬のカットを始めた。広告収入の落ち込みは景気の悪化や広告主のテレビ離れが主因であるが、いずれ視聴者の高齢化という要素も入ってくるかもしれない。

 しかし、逆に言えば、視聴者の高齢化というのは、テレビ局にとっては大きなチャンスのはずである。高齢者がパソコンや携帯を使って動画を頻繁に見るということは考えにくいからである。また、現在の日本では高齢者が最も裕福な層であることを考えると、広告主にとっては最も魅力的な市場となっているはずである。実際、米国でも、過去5年間の全世帯支出は32%しか増えていないが、55〜64歳が家長の世帯の支出は60%増加している。

 従って、テレビ局と広告会社は、今後はこれまで以上に高齢者をテレビに取り込む努力をしなければならない。巷にあふれている若者向けのバラエティー番組ばかりでは、高齢者は民放から離れてNHKやテレビ以外に向かうだけである。米国以上に急速に高齢化が進んでいるという現実を踏まえると、日本のテレビ局は、テレビから離れる若者をクロスメディア戦略でつかまえる以上に、高齢者をテレビの本体でつかまえるという努力が必要なのではないだろうか。

 つまり、社会構造の変化が進んでいる以上、それに適応できるように自らを構造改革しなくてはならないのである。それを先送りすればするほど、テレビは縮小均衡に陥らざるを得ない。逆に、正しい構造改革を進めれば、必ずやテレビは再生するであろう。

 日本は高齢化などの社会変化が世界で最も早く現れていることから、“課題先進国”と喩耶されることが多いが、それゆえに、世界が遅れて経験する社会構造の変化への正しい対処方法を発信できる立場にある。テレビ局と高齢化の関わりもそのコンテクストで捉えられるのであり、日本のテレビ局は、高齢化に対応した新たなビジネスモデルを世界に先んじて作り上げるつもりで頑張ってほしい。

[2008年7月22日]

-筆者紹介-

岸 博幸(きし ひろゆき)

慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授、エイベックス取締役

略歴

 1962年、東京都生まれ。一橋大学経済卒、コロンビア大学ビジネススクール卒
業(MBA)。86年、通商産業省(現・経済産業省)入省。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)、資源エネルギー庁、内閣官房IT担当室などを経て、当時の竹中平蔵大臣の秘書官に就任。同大臣の側近として、不良債権処理、郵政民営化など構造改革の立案・実行に携わる。98〜00年に坂本龍一氏らとともに設立したメディアアーティスト協会(MAA)の事務局長を兼職するなど、ボランティアで音楽、アニメ等のコンテンツビジネスのプロデュースに関与。2004年から慶応大学助教授を兼任。06年、小泉内閣の終焉とともに経産省を退職し、慶応大学助教授(デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構)に就任。07年から現職。

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