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更新:7月16日 09:01ビジネス:最新ニュース

テレビ局は「負のスパイラル」に抵抗できるか・コンテンツのビジネスモデルを探る(2)

 昨年後半にサブプライムローン問題が発生して以降、企業の広告出稿が慎重になっている。その影響がとりわけ広告市場で大きな割合を占めるテレビ広告に与えるダメージは大きい。実際、民放キー局5社の2008年3月期の実績にも少なからず影響を与えており、各社とも前の期に比べて売上高、利益とも落ち込んでいる。今期になって役員報酬カットを発表する局も出てきている。

※文中の意見に係る部分は筆者の私見であり、所属する監査法人トーマツの意見を代表するものではない

民放キー局5社の2008年3月期業績(各社決算資料より作成)
 売上高(億円)前期比増減率営業利益(億円)前期比増減率純利益(億円)前期比増減率
フジテレビ5754-1%243-42%157-37%
日本テレビ34210%230-24%106-42%
TBS3151-1%206-19%19043%
テレビ朝日25271%99-27%64-38%
テレビ東京1216-2%30-32%10-57%

 テレビ広告収入が落ち込むと、番組制作費が減少し、テレビ番組の質の低下が懸念されると言われている。また、番組の質が落ちると、視聴率が低下し、さらに広告収入が落ち込むという「負のスパイラル」に陥るといわれている。

 なぜこうなってしまうのか? 答えはテレビ局のビジネスモデルにある。

■タイム収入とスポット収入

 地上波テレビ局の主な収入は広告収入である。広告収入は番組提供スポンサーからの広告出稿によって得られるタイム収入と番組と番組の間に流される広告によるスポット収入の2種類に分けられる。

 タイム収入の番組の提供スポンサーは通常複数社になる。よく番組の最後にある「この番組は○○の提供でお届けしました」で名前が出てくるのがスポンサー企業である。複数企業によってタイム収入が賄われている場合が多いが、1社のみが提供スポンサーになる場合もある。

 例えば、日立製作所グループが提供スポンサーになっているTBS系の「世界ふしぎ発見」やトヨタ自動車がスポンサーになっているテレビ朝日系の「素敵な宇宙船地球号」などがその例である。1社スポンサーの場合には、スポンサーの商品イメージと番組イメージが重なることから番組制作に際してはスポンサーの意向が少なからず反映されることがある。

 そのタイム収入は大部分が番組制作費と地方局への電波料(ネットワーク費)に充当されるのに対し、スポット収入はテレビ局があらかじめ契約で決めた時間帯や曜日などの大枠のなかで自由に流せる広告によって得るものだ。

 スポット収入は、スポンサー企業との契約形態にもよるが、視聴率によって大きく左右されるといわれている。視聴率が高い局ほどCM効果が上がると考えられ、スポット収入の単価が上がり、収入全体が増加することになる。タイム収入は番組が成り立つためにはなくてはならないものだが、スポット収入はテレビ局の利益を生み出す大きな源泉である。

■タイム収入が減るとスポット収入も減る

 企業がテレビ広告への出稿を絞り込むとテレビ局のタイム収入が減少する。タイム収入が減少すると支出を削減しなくてはならない。支出の削減の矛先は費用対効果が明確な番組制作費か地方局への電波料に向かうことになる。地方局への電波料はキー局が全国ネットを維持するために必要不可欠な費用であり、ローカル局の電波を利用させてもらっている対価と考えることができるが、広告収入が落ちれば全国ネットとしての媒体価値も落ちるので連動して削減対象になる可能性がある。

 こうした番組制作費の削減は番組の質の低下を招く危険性があり、質の低下は視聴率の低下を招くことになる。視聴率が低下すると、今度はスポット収入の減少につながり、タイムの広告枠の価格も落ちるという悪循環に陥ることになる。

 一方、地方局への電波料の削減はローカル局のネットワーク収入の減少を誘発し、ローカル局での番組制作費の削減につながる。番組制作費の削減がさらなる収入の減につながることは先のロジックと同じである。これが広告収入への依存度が高い地上波テレビ局の宿命である。

 では、テレビ局はこうした状況に手をこまねいたまま負のスパイラルに陥りつつあるのを放っておくのか? 各局とも広告収入以外の収入(その他放送外収入)を伸ばすべく、さまざまな手を打っているという状況だろう。

 その代表的な取り組みは以下のとおりである。

 1.映画ビジネスへの参入
 自社のテレビ番組の映画化、製作委員会への出資など

 2.テレビショッピング(通販)ビジネスの拡大

 3.不動産賃貸事業の強化

 今後さらに放送外収入を拡大していくためにはテレビ番組のマルチユースを進めることが重要だと思われる。「メディア・ソフトの制作及び流通の実態」(総務省情報通信政策研究所)によると、05年の地上波テレビ番組の一次市場流通規模は2兆5779億円とされているが、マルチユース市場規模は2978億円に過ぎない。

 今後、映像のインターネット配信、第3世代携帯での動画配信が活発化してくるにつれ映像コンテンツが不足してくると思われる。そのときにテレビ番組のマルチユース利用が注目されることになると予想される。テレビ局が視聴者にとっての映像ポータル(玄関)の地位を保ちつづけるためには、テレビ番組の広告以外での稼ぎも考えなくてはならないだろう。

[2008年7月16日]

-筆者紹介-

伊藤 雅之(いとう まさゆき)

監査法人トーマツ パートナー 公認会計士

略歴

 1987年監査法人トーマツ入社。TMT(Technology-Media-Telecommunication)インダストリーに属する数多くの企業の法定監査やM&Aサポート業務に従事している。文化庁や総務省のコンテンツ流通に関する研究会にも委員として参加。主な著書に「コンテンツビジネスマネジメントVer2.0」(日本経済新聞出版社)、「開示情報からわかるコンテンツ企業のビジネスモデル分析」(中央経済社)がある

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