政府が発表した今年の通商白書は、グローバル化の進む世界経済が、米国のサブプライム住宅ローン問題による金融不安と、資源・食料価格の高騰に伴うインフレ圧力の増大という二つのリスクによって「大きな困難に直面している」との見方を示した。
グローバル化によって世界経済の拡大と一体化が進んでいただけに、白書は世界の約二割を占める米国の消費の急速な減速に危機感を強調した。住宅市況の下落、雇用環境の悪化で住宅投資は減少し、企業向けローンを含めた金融機関の貸し出し基準が厳格化され、米景気は後退する懸念もあるとしている。
白書は、グローバル化のマイナス面として、主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)でも大きなテーマとなった資源・食料価格の高騰について詳細に分析している。
二〇〇〇年四月から今年四月まで、原油価格は四・四倍、鉄鉱石と石炭は四・九倍、銅が五・二倍になった。食料ではトウモロコシが二・六倍、大豆は二・四倍、小麦は三・四倍、コメは四・七倍に上昇した。原因は、増産による供給が伸びない中で、中国・インドなど新興国の需要が急増しているためだ。
価格押し上げの要因として投機マネーの存在も指摘する。米サブプライムローン問題が表面化して以来、世界の年金基金やオイルマネーが「より安全な資産」として商品市場へ流れ込んでいるのが原因だ。先進国ではエネルギー、新興国では食料価格の高騰が国民生活を直撃し、インフレ圧力を増大させた。
食料価格高騰は途上国を中心に社会不安を引き起こした。白書は、食料の輸出規制により貿易を減らすのは望ましくないとして、解決には「食料生産力や貿易の強化に向けた支援が有効」と提言している。国際機関や先進国による支援は当然だが、投機マネー規制についても踏み込んだ指摘がほしかった。
白書は、経済のグローバル化で、新興国の名目国内総生産(GDP)は最近五年間で二倍以上に増えたと述べている。人口四十億人の新興国市場が大きな存在感を持ち、先進国を合わせた「五十億人」市場が出現したととらえている。
中でもアジアは、人口三十億人の大市場で、世界経済の持続的発展を先導する役割が期待されていると白書は強調する。少子高齢化で人口が減少し続ける日本は、地球温暖化問題で先進技術を提供し、経済統合の取り組みを進めるなどアジアとの連携を深め、活力を呼び込む発展戦略が重要になる。
警察庁は東京・秋葉原の無差別殺傷事件で使われたダガーナイフなど両刃の刃物の所持を原則禁止にすることを決めた。殺傷能力が高く、日常生活に不可欠な道具とはいえないと判断した。今秋の臨時国会に銃刀法改正案を提出する方針という。
銃刀法が規制する刀剣類の規定見直しは四十六年ぶりである。事件の衝撃の大きさを物語る対応といえよう。合わせて昨年十二月に長崎県佐世保市で起きた散弾銃乱射事件を受け、ストーカーの加害者らに銃の所持を認めない規定も盛り込む。
ダガーナイフは両刃の短剣で、刃の先端部が鋭くとがっているのが特徴だ。狩猟で獲物にとどめを刺すのに用いられることが多い。
秋葉原事件の凶器として使用されたため、都道府県の間で「有害刃物」として十八歳未満の青少年への販売などを条例で禁止する動きが加速した。だが、大人は対象外の上、インターネットで容易に入手できるともいわれ、法律による所持禁止を求める声が上がった。
警察庁は当初、銃に比べ種類の多いナイフに対する規制強化の実効性を疑問視していたが、政府の強い要請を受けて対応することになった。
確かに殺傷力の高い特殊な刃物が一般に出回っている社会は、安全面で問題がある。ただ漁業者やダイバーらには重宝されている面もある。法改正で所持は許可制になる見通しだが、改正内容を周知徹底し混乱を招かないようにしてもらいたい。
さらに一部の刃物を法律で規制しても、犯罪防止の決め手にはなるまい。包丁やカッターナイフなどは生活必需品だ。幼いころから家庭や地域、学校で刃物の危険性や命の大切さなどについて、教育をさらに強化する必要があろう。
(2008年7月22日掲載)