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2008年7月23日

◎金沢・松本協定締結 「城下町連合」拡大も視野に

 金沢市が文化・観光交流都市協定を締結した長野県松本市は、戦災に遭わなかった城下 町という点で共通項が多い。同じ城下町では既に高崎市とも協定を結んでおり、これを機に「城下町」を縁にネットワークを広げていくのも金沢市の都市交流政策の重要な視点である。城址も晴れて国史跡となった金沢市には「城下町連合」のリーダー役を務める資格は十分にあるだろう。

 東海北陸自動車道の全線開通、さらには北陸新幹線開業へ向け、都市間交流が活発にな ってきた。交通網が整備されれば広域観光の可能性が広がる。地域の顔ともいえる都市同士が結びつきを強め、集客で協力し、広域観光ルートを提案するのは大事なことだ。

 だが、せっかく協定を結ぶからには観光誘客だけではもったいない。歴史や街の成り立 ちに共通点があれば、都市政策にも学び合う点は多いのではないか。

 日本の主要都市の多くは近世に城下町として発展した歴史をもつが、藩政期以来の都市 構造や町並みが失われ、それらを現代の都市づくりに生かせる地域はそう多くない。国宝松本城を擁する松本市などはその数少ない例であり、実際、城を中心とした景観施策に力を入れている。政策面でも連携を強めれば自治体間の信頼関係が深まり、市民同士もより身近に感じるだろう。

 国土交通省は古都保存法の理念を広げ、今年度に歴史まちづくり法を制定した。金沢市 は支援制度の認定第一号を目指している。歴史都市を後押しする新しい制度だが、とくに城下町という明確な概念はない。城下町の歴史や資産を都市活性化に生かす地域同士がネットワークを広げることで、その都市形態の価値は広く認知されることになる。それは城下町のトップランナーを目指す金沢市にとっても大きな意義がある。

 金沢市が提唱した都市の集まりとしては、寺院群を有する自治体による「寺町サミット 」がある。参加都市はいずれも城下町で、すでに十四年の活動歴をもつ。こうした既存のネットワークも生かしていけば、多様な都市連携が可能となり、交流の実もあがるだろう。

◎経済財政白書 家計にリスク求めても

 二〇〇八年度の経済財政白書は「リスクに立ち向かう日本経済」という副題を掲げ、成 長力を向上させるには企業と家計がリスクを取り、積極的に投資をする必要があると強調している。膨大な個人金融資産を貯蓄から投資に向かわせる必要性はかねて指摘されている。そのことを今さらながら日本経済の脆弱(ぜいじゃく)性の一因に挙げる白書は説得的というより、むしろ戸惑いを感じる国民が少なくないのではないか。

 個人金融資産を投資に導くには、政府の経済運営に対する国民の信頼感も必要であり、 それを醸成する点で経済財政白書に物足りなさを覚える。

 約千五百兆円にも上る国内の個人金融資産は、半分が現金・預金であり、株式や投資信 託などのリスクマネーは15%程度にとどまる。約45%の米国に比べるとその割合は大変低い。家計部門は資金の最終的な貸し手であり、もっと経済活動への投資に活用されれば成長力を高めることができるという指摘はもっともである。

 ただ、経済財政白書は、戦後最長の景気回復が足踏み状態に陥った原因を、米国の景気 減速や原油高騰などの外的ショックと、リスクを取らない企業と家計に求めるばかりであり、政府自身の経済政策に対する分析が十分なされたのかどうか疑問が残る。超低金利時代が十年以上も続いているのに、個人金融資産がなかなか預貯金から動かないのはなぜか。その理由の一端は政府の政策にもあるのではないかと自己分析する必要もあると思われるのである。

 経済財政白書は、外的ショックの影響に関して、グローバル化のために苦境に陥ったの ではなく、日本経済が主体的にグローバル化に取り組まなかったためだと分析し、一層の改革を促している。その一方、労働経済白書は、改革の一環として政府も称揚した業績・成果主義的な賃金制度の弊害を指摘し、旧来の制度を再評価する動きに言及している。二つの白書から、政府の経済運営の方向性に揺らぎが感じられる。経済の舵取りをしっかり行うよう福田首相にあらためて求めておきたい。


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