「うっかりミス」は叱っても減らないシステム責任者が顔を真っ赤にして,データセンターに乗り込んできた。ある企業でシステム障害が発生した直後のことである。システム責任者がデータセンターに足を運ぶことはめったにない。トラブルを知って駆けつけたのだ。 障害の原因は,運用オペレータの操作ミスだった。システム責任者は「どうしてミスをしたんだ」と作業者に詰め寄る。オペレータが「申し訳ありません」と頭を下げると,システム責任者は「謝るだけでは分からない」と迫る。 「いつもはきちんとやっていたのですが」「自分でも分かりません」「うっかりミスです」。オペレータが言葉を並べても,システム責任者の怒りは収まらない。「ミスしたのに,さらに言い訳するつもりか」と追及する。 そこに,システム責任者の部下の課長がやってきた。課長もオペレータに怒りをぶつける。課長の後はリーダー,担当者と順番にオペレータをしかりつけ,データセンターを去っていった−−。
怒る気持ちは分からなくもないがこれは,「うっかりミス」によるシステム障害を起こしたある企業で実際に起こった話である。この企業に限らず,ミスによるトラブルが発生したときに,作業者をしかったり罰したりするケースは珍しくないのではないか。 システム責任者が怒る気持ちは分からなくない。システムが止まれば顧客や社内に迷惑がかかる。システム責任者は経営者や利用部門からしかられる。「しっかりしてくれよ」と言いたくなるのはもっともである。 だが,ミスした作業者をしかりつけて,「もうしません」と反省文を書かせたとして,それでミスの再発が防げるだろうか。もしそうなら,うっかりミスによるトラブルは,とっくになくなっているはずだ。 現実はどうか。IT業界ではうっかりミスによるトラブルが減る気配はない。むしろ増えているとさえ感じる。ミサイル発射の誤報,ATM障害,電車の緊急停止−−。最近発生したトラブルの多くは,うっかりミスが原因だ。ここでいううっかりミスとは,運用操作の誤り,パラメータの設定漏れ,データ入力ミス,障害からの復旧作業の誤りなどを指す。
「ミスを許さない社会の風潮が悪影響を及ぼす」システム開発・運用現場でうっかりミスの発生を防ぐには何をすべきで,何をしてはいけないのか。日経コンピュータは,うっかりミス削減の方策を探る特集を組んだ。うっかりミスの発生メカニズムを研究する専門家や心理学者,「失敗学」に詳しい大学教授などに話を聞いた。鉄道や航空,医療など人命に関わる業界の取り組みを知るために,元パイロットや鉄道会社の幹部にも取材した。 一連の取材では,ミス防止のヒントになる貴重な意見を聞くことができた。詳細は誌面をご覧いただきたいが,ここでは一つを紹介する。「ミスの原因を分析するとともに,その情報をなるべく多くの人で共有する」ということである。 なかなか難しいことだ。ミスを正直に報告したら作業者は冒頭のようにシステム責任者にしかられる。システム責任者は経営者や利用部門に怒られる。経営者はメディアや社会から非難され,利用部門は顧客にしかられる。 だれだって,しかられるのはいやだ。そこで担当者はミスの原因を深く追究せずに「二度と起こしません」とその場しのぎの対応で乗り切る。企業はトラブルの原因を公表せずに「再発防止に努めます」などと発表する。メディアや世間は,原因は分からないままミスした企業を非難する。これでは,うっかりミスはなくならない。 「メディアを含め社会全体が,他人のミスにもっと寛容になるべきだ。お互いに足を引っ張り合うのでなく,起きてしまったことは仕方がないと考えて,再発防止を最優先に考えるべきだ」。ミスによるトラブルを起こしたあるユーザー企業のCIO(最高情報責任者)は,自身の経験を踏まえこう訴える。
見聞きした「うっかりミス」を教えてください再発防止を目指すなら,まず企業が原因の詳細を公表する。その上でメディアはミスを非難するのでなく,同様のミスが他社で起こらないようにする目的で冷静に報じる。こうした姿勢がミスをなくすことにつながるのではないか。 もっとも,これらは一生懸命に取り組んだ結果の,意図しないミスによるトラブルについての話である。情報の悪用や意図的な誤操作,ルール違反といった悪質なケースは許すわけにはいかないのは言うまでもない。 ここからはお願いです。読者の皆様が実際に体験した,あるいは見聞きしたうっかりミスを教えていただけませんか。ミスの実例と原因を共有することで,再発防止につなげるのが目的です。集計結果は追って公開する予定です。締め切りは7月24日(木)とさせていただきます。 キーワード
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