社説(2008年7月22日朝刊)
[竹島問題]
対話の窓を閉じるな
韓国の李明博大統領が二月二十五日の就任式の後、初の首脳会談に選んだ相手は、同盟国アメリカのブッシュ大統領ではなく福田康夫首相だった。
李大統領は四月に来日し、再び福田首相と会談。未来志向に基づく「日韓新時代」の実現を華々しく打ち上げた。関係改善への期待が両国の中で急速に高まった。
あれからまだ三カ月しかたっていないのに日韓関係は、友好ムードが吹っ飛び、再びぎくしゃくし始めている。
日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)のことが、中学校社会科の新学習指導要領の解説書に初めて明記されたからだ。
「我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違があることなどにも触れ、北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」
ずいぶん回りくどい言い方である。幾通りもの文章表現を慎重に検討し、推敲を重ねたであろうことは想像に難くない。持って回った表現になったのは、竹島の領有権を主張する韓国への外交的配慮からだ。
だが、韓国側の反発は収まる気配がない。日本側の竹島記載に対抗して韓国政府と与党ハンナラ党は、現在の「実効的支配」の状態からさらに一歩進め、島の支配を強化する方針を確認したという。
領有権問題は、それぞれの主権にかかわるだけに国内のナショナリズムを刺激しやすい。それだけに両国政府とも、相手を袋小路に追い込まないような細心の対応が必要だ。
日本海にある竹島は二つの小島と周辺の岩礁からなり、総面積は約〇・二一平方キロメートル。日本は一九〇五年、閣議決定で竹島を島根県に編入し、「歴史的に見ても日本の領土であることは明らか」だと主張し続けてきた。
韓国は五二年、当時の李承晩大統領が竹島を取り込む形で日本海に「李承晩ライン」を設け領有権を主張。警備隊を常駐させ、灯台を建設するなど実効支配を続けている。
今回、韓国との関係悪化を恐れた外務省に対し、竹島の記述実現に強くこだわったのは文部科学省である。
学習指導要領はおよそ十年ごとに改定される。今年はその当たり年だ。指導要領改定に合わせて解説書も見直すことになっており、「この機会を逃すと十年間は(記載の)チャンスがない」というのが文科省の言い分だ。
だが、それにしてもタイミングが悪かった。
韓国の李政権は、米国産牛肉問題で支持率が急落し、北朝鮮の金剛山で発生した韓国人観光客射殺事件によって南北関係も急速に冷え込んでいる。そこに竹島問題が表面化したのである。
それぞれの事情を無視して一方的に主張を押し通そうとしても領有権問題は解決できるものではない。
「日韓双方が領有権を主張している」という動かし難い事実を承認することが出発点だ。そのような認識を共有すること自体、困難が伴うことではあるが、それなしには対話は成り立たない。
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