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助産師の権限拡大どうなる!?(上)

 「助産師の権限拡大よりも、経験の不十分な助産師への教育と看護師の活用だ」―。舛添要一厚生労働相の肝いりで先月まとまった「安心と希望の医療確保ビジョン」に対し、産科医療の現場から批判の声が上がっている。勤務医の負担軽減のために、助産師を活用しようと権限拡大も視野に入れる厚生労働省側に対し、現場は「単純に助産師の権限を拡大するのは危険」と訴える。現場の実情に沿って助産師や看護師を活用してほしいとの考えだ。助産師を取り巻く現場はどうなっているのか、ビジョンを確実に実現していくために何が必要なのかを探った。(熊田梨恵)

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■新人助産師が辞めてしまう

 千葉県船橋市にある産婦人科の山口病院(山口暁院長、一般41床)は、約40年間、地域に根付いた産婦人科医療を提供してきた。助産師として10年以上のキャリアを持つ渡辺小百合さんは、「経験が浅い助産師は、精神的にも肉体的にもさまざまなサポートがないと仕事を続けるのが難しいと思う。『お産は安全』だと思っている妊婦さんやご家族が多い中、助産師はトラブルがなくお産に持って行けるよう、モニター管理などにも気を使う。お産が多い夜勤時は体力的な負担も大きい」と話す。

 山口病院が扱うお産は年間で約2000件。非常勤を含めて9人程度の産婦人科医と、約20人の助産師、約40人の看護師で切り盛りしている。夜勤は看護師を含めて4人。夜間の分娩は平均すると3件程度だが、全く分娩がない日もあれば、10件以上重なってスタッフが奔走する夜もある。

 渡辺さんは、「自分が助産師になった時は、助産師学校で半年ほど実習し、10例のお産を扱った。就職時はプリセプターが3か月間みっちり付いて、その後に戦力として夜勤にも入ったが、最初は何かあってはいけないと本当に怖かった。でも今の助産師は実習でもほとんどお産を経験できずに現場に入る。実際に現場でやってみたら体力的、精神的にもさまざまな負担があって、助産師としての楽しみも分からないままに辞めてしまう」と、表情を曇らせる。


■厚労省は助産師の権限拡大がねらい?

 6月18日にまとまった「安心と希望の医療確保ビジョン」は、医師の負担軽減の観点から、「助産師については、医師との連携の下で正常産を自ら扱うよう、院内助産所・助産師外来の普及等を図るとともに、専門性の発揮と効率的な医療提供の観点から、チーム医療による協同を進める。またその際、助産師業務に従事する助産師の数を増やすとともに、資質向上策の充実も図る」との文言を盛り込み、助産師の活用を提案している。

 しかし、この「活用」の具体化について疑問の声が上がっている。
 これまでのビジョン会議では、助産師や看護師側から、「保助看法を変えるのが難しければ通達で認めるべき。限られた範囲でも権限を与えることが表明されれば、現場はもっと進む」など、権限拡大を求める意見が上がっていた。

 ビジョン会議の最終日には、厚労省はわざわざ会見を開いて報告書の内容を説明したが、これは異例のこと。産科対策については、「助産師と医師の協働が必要。助産師外来の普及など、助産師を活用することが、即効性があって有効」と、助産師の活用を強調していた。
 さらに会議中には、これまでも事務局である同省医政局に立場が近いと指摘される矢崎義雄委員(国立病院機構理事長)が、ビジョンの中身について、医師や看護師、助産師などとのスキルミックスについて記載していることに言及。「医師法や保健師助産師看護師法などの法令見直しは直ちに無理でも、拡大解釈を進めていただければ」と、厚労相に訴えていた。

 こうした厚労省の動きについて、関係者は「医政局看護課は助産師について、法律の解釈変更による権限拡大を狙っている」と解説。ビジョンの中身を具体化する際に、現場の実情を踏まえずに、助産師の権限を拡大を視野に性急なプロセスで進めようとしているとして危ぐを示した。


■「方向はいいが、プロセスを間違うな」

 これについて、日本産科婦人科学会周産期委員会で母体救急や母体死亡などについて調査し、厚労省研究班のメンバーでもある国立成育医療センターの周産期診療部産科の久保隆彦医長は、「『ビジョン』の方向性自体は良い。しかし、単純に助産師の権限を拡大する方向は大変危険。今の現場の実情を踏まえた方向でやるならば、実現する可能性はある」と語る。

 久保氏は助産師の現状について、「わたしが医者になった30年ほど前は、助産師にお産を、看護師に内診を教えてもらったほどで、『医師はどいてなさい』などと言われたもの。しかし、15年ぐらい前から新卒の助産師は、『お産も内診もできない。怖い』と言うようになり、チーム医療の一員に加われなくなった。現在の新卒助産師は、以前と比べてお産の経験が明らかに減っている。このような助産師たちが現場で一人前になって働けるような体制が必要」と訴える。


■実習内容が希薄に

 大学の看護学部が開設ラッシュを迎えた1990年代以降、助産師の資格は、看護大などで4年次に「助産師コース」を選び、卒業時の国家試験に合格して取得するルートが主流だ。それまでは、多くが看護師資格を取得後に、助産師学校などでさらに1年間の助産師教育・実習を受けていた。これに比べ、看護大では実習が不十分との指摘が現場から上がっている。

 大学での実習は、助産師の受験資格取得のために必修単位が設定されているが、卒業に必要なほかの単位も履修しなければならず、国家試験の受験勉強もあるため、以前と比べて、実習期間が短くなっていることが多い。また、「10回以上」とされていた実習時のお産の取り扱い件数も、89年に「10回程度」に変更されたため、2−3回しか経験しないまま現場に入る学生もいる。患者の権利意識の高まりやリスクなどから、実習生は見学にとどめるケースもある。

 久保氏は、「就職してすぐの助産師は戦力として考えられる状態ではない。また、それを自覚している新卒助産師はお産の現場で揉まれるより、大人数の病院で『寄らば大樹の陰』になったり、教職に就くなど、臨床現場から離れる」と語る。そして、一定のお産件数を経験した助産師に認定を与えるなど、助産師の教育体制を充実すべきと訴える。


■専門看護師の活用と、助産師増員を同時に

 その上で久保氏は、看護師の活用を提案する。
 「看護師は助産師の約50倍以上の人数がいる。欧米では、産科やNICU、救急などの医療に特化した専門看護師を多数参入させて、医療レベルを維持している。日本でも『エキスパートナース』をつくって産科・新生児医療に加わってもらう。そこで看護師、助産師が医師と連携していけば、医師はチーム医療の指揮・指導に専念できる。その結果、負担も軽減され、現状の産科やNICUの医師数で倍以上の妊婦、新生児を診療することができ、社会問題となっている『お産難民』、『妊婦の受け入れ不能』などは解消される」

 不足が指摘される助産師の数については、1人の医師に6-8人の助産師が付くとすると、現在の約2万7000人に対し、約5万人が不足しているとの試算を示す。
 「毎年の卒業生から、教職など他の職に就く卒業生を別に考えると、増えるのは年に1000人程度。今の不足分が充足するには約50年間が必要。ただし、新卒の助産師を即戦力として考えているので、余裕を見て考えるためにも、専門看護師の参加が不可欠」
 久保氏はこのように述べ、助産師の増員と教育、専門看護師の産科医療への参入をそれぞれ図っていくべきと主張した。

(下に続く)


更新:2008/07/22 14:55   キャリアブレイン


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