ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン長野> 記事

(医療のゆくえ) 産科医不足を考える

2008年07月22日

写真

 ひろせ・けん 49年、上田市生まれ。諏訪赤十字病院勤務中に上田市産院の危機を知り、06年4月に副院長として赴任。今年1月から院長。

 ――地域の産院で何を感じていますか。
 「助産師の力を底上げし、正常妊娠・正常出産をより主体的に扱えるようにしないと、お産できなくなる地域が数年のうちに出てくる。そうならないよう、助産師の教育制度を改革し、お産に取り組みやすくする条件整備が要る。その上で地域で働く助産師を増やす。正常出産は本来、助産師の職域だが、今すぐ責任を持って担える助産師は多くない」

 ――県は産科医の負担軽減のために助産師活用を打ち出しました。ただ、産科医を中核的病院に集めることが基本です。
 「集約化は、妊婦死亡について調べた97年の厚生省研究班の報告を出発点にしている。医師1人の施設に死亡例が多く、不十分な医療体制が原因という解釈が引き出され、お産は大病院でないと危険とみなされた。だが報告書の読み違いが指摘されている」
 「ハイリスク妊娠をきちんと診察するために、産科医の集約はある程度必要だ。問題は正常出産まで大病院に集約すること。産科医の負担は減らないし、妊婦に優しい仕組みとは言えない。地元でお産できず、陣痛が始まってから遠くの病院に駆けつけなければならない。身体の危険性と心理的な負担は大きい。妊婦健診と出産の分担で、妊婦はストレスを感じるだろう」

 ――集約化しないで乗り切れますか。
 「出産の7〜8割は正常な経過をたどる。私が産科医になった頃、主に夜間の正常出産は助産師に任せられていた。今は医師が立ち会うが、実質的に助産師に任せている実態はあまり変わらない。経済協力開発機構の多くの加盟国で、正常出産は助産師の職域だという考えに基づいた施策が徹底している」

 ――日本の妊婦死亡率が戦後激減したのは、家庭での出産から安全な施設出産に移ったからだと聞きます。
 「周産期医療の進歩は否定しない。だが貧困の克服や衛生状態の改善、母子手帳の交付、定期的な妊婦健診などの下支えも大きいはずだ。というのは、妊婦死亡率は敗戦までの半世紀にも、その後の半世紀と同じペースで下降しているから。『病院の出産は安全で、助産師の手による出産は危険』と一くくりにするのは正確とは思えない」

 ――出産を地域でどう担ってゆけるでしょうか。
 「お産の仕方や場所は基本的に妊婦の選択によるべきだ。医師による出産を選ぶ人も多いが、合併症などの危険性がない限り、身近で、家族の思いを受け止められるお産の選択肢を確保すべきだ」
 「当院は助産師の能力と責任感を伸ばす工夫をしている。助産師外来を拡充し、助産師自らが正常出産を担い、どこから医師に指示を求めるか指針を作成している」

 ――バースセンターが自治体に認知され出しました。
 「顧問の産科医が常駐し、安全を確保することが望ましい。医療機関と緊密に連携し、危険性が高まれば医師の力を借りるという仕組みを確立できれば、助産師4、5人のチームで正常出産を年100件扱えるだろう」
 「上田市の塩田母子健康センターは15年前まで、助産師が地域のお産を扱っていた。バースセンターはその現代版と言えよう。医師の支援で安全策を整備したうえで、助産師がいきいきと出産を扱える地域は、住民にも幸せではないか」
(聞き手・田中洋一)

バースセンター 助産師が中心となって正常出産を扱う施設。妊婦の体のリズムを尊重し、医療介入の少ない出産を進める。家族の立ち会いや宿泊を認める場合が多い。産科医不足の中で、院内助産所や助産師外来とともに期待されている。緊急時に医師が対応できる態勢づくりが必要だ。2年前に鹿児島県の徳之島に開設され、宇都宮市や浜松市で準備中。長野県内では東御市が検討している。

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり