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社説

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国交省公用車―無駄ゼロが泣いている

 官製談合で現職局長が逮捕されたのは、ほんの1カ月前のことだ。税金を使って職員用のマッサージチェアやカラオケセットを買い、批判を浴びたことも記憶に新しい。

 そんな国土交通省をめぐって、問題がまた起きた。今度は公用車にかかわる談合の疑いである。

 国交省が持つ公用車は、必ずしも職員が運転するわけではない。多くの場合、委託された外部業者の運転手がハンドルを握っている。この公用車の運転などの仕事を特定の業者が独占的に受注していたというのだ。

 問題とされた各社は入札に先だって、どこが請け負うかを調整していた疑いがあるといい、公正取引委員会が立ち入り検査に入った。

 相次ぐ談合にはあきれるが、今回はさらに首をかしげることがある。

 業者のうち上位3社だけで、国交省からの仕事の9割を受注している。そしてこの3社には、国交省のOBが数多く天下っているというのだ。

 どう考えても、これはおかしい。仕事をもらうかわりにOBを受け入れている。そんな「持ちつ持たれつの関係」にしか見えない。

 OBがいることで仕事が有利になった面はないのか。談合の実態とあわせて、まず明らかにしてもらいたい。

 国交省は癒着を疑われたくないのであれば、取引のある業界への天下りをやめるべきだ。

 これに加えて指摘したいのは、そもそも公用車が多すぎるのではないか、ということだ。

 国交省は道路整備特別会計からの支出で買った約1400台の公用車を全国約150の出先機関などで使っている。かつてたくさんいた職員の運転手が140人まで削減された一方で、車はどれだけ必要なのかが十分検討されないまま維持されてきたようだ。

 幹部クラスの送迎のほか、交通の不便な工事現場へ出向く際などに使われているというが、実際には地元の市役所など、電車やバスで行ける場所への移動の足にもなっている。そうやって使ってもなお、1カ月の稼働が40時間といった例を聞くと、必要でない車がかなりあるとしか思えない。

 さらに、こうした職員の移動に、なぜ運転手付きの車が必要なのか。民間企業では社員がみずから営業車を走らせるのが当たり前だ。

 折しも政府・与党は、福田首相の「無駄ゼロ」の音頭で、各省庁の予算の見直しを進めている最中だ。自治体からも、地元にある国交省の出先機関のぜいたくな予算の使い方には疑問の声が出ている。

 国交省に限らず政府のコスト意識は、民間とかけ離れている。こうした意識を根本から改め、身を切る姿が見えなければ、納税者は納得できない。

日弁連―司法改革の原点に帰れ

 日本の法律家は弁護士2万5千人、裁判官3200人、検察官2400人である。この数を人口比でみると、欧米先進国に比べて極端に少ない。

 とくに、頼りになるべき弁護士が身近にいないと、だれでもいつでも利用できる司法の実現などは、絵空事になってしまう。

 そこで法曹人口を18年ごろに5万人にまで増やす。そのために司法試験の合格者を10年までに年3千人に引き上げるという政府の計画ができた。昨年の合格者は2099人に増えた。

 ところが、日本弁護士連合会が「数値目標にとらわれることなく、当面の増員のペースダウンを求める」という方針を決めた。司法試験を所管する法務省に提言する。

 これに対し、町村官房長官は「司法改革に携わってきた立場をかなぐり捨て、急にそういうことを言い出すのは見識を疑う」と述べた。当然の批判と思う。政府は目下の増員の方針を変えるべきではない。

 法科大学院の教育が不十分で、司法修習生の質が落ちている。修習生の大半は弁護士になるのに、法律事務所に就職できない弁護士があふれ、先輩の指導を受けずに独立せざるをえない弁護士が出てしまう。これらが日弁連の言う理由である。

 だが、法科大学院には多くの弁護士が教員として派遣されている。その教育が不十分というのなら、誕生してまもない法科大学院の教育力の向上をもっと支援するのが先だろう。

 新人弁護士の就職難は確かに悩ましい問題だ。しかし、地方では弁護士過疎が解消されていない。全国の地裁支部管内のうち、弁護士が1人しかいないところがまだ24カ所ある。都会にたくさんいる弁護士をどうやって地方に振り向けるのか。日弁連や各地の弁護士会は知恵を絞るべきだ。

 依頼を抱えすぎて過労気味の弁護士も少なくない。これを解消するためにも、指導の手間はかかるが、積極的に新人弁護士を迎え入れてほしい。

 官庁や自治体、企業では、談合や裏金づくりなどの不祥事が絶えない。法令を守る体質へ脱皮するためにも、職員や社員として弁護士を雇うことを考えてはどうか。

 格差社会のなかで、法の救済が受けられずに泣いている人々は多い。日本司法支援センター(法テラス)には昨年度、22万件の相談が舞い込んだ。

 来年からは、集中審理となる裁判員制度が始まり、容疑者の国選弁護の範囲も拡大される。刑事裁判でも弁護士の需要が増える。

 弁護士もビジネスだから、過当競争を心配する気持ちも分からないわけではないが、適切な競争はむしろ好ましい。いまは、司法改革の理念を大事にして増員計画を進めるときだ。

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