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年金問題:無年金13年後の回復 入力ミス、73歳に受給資格

 ◇「ユキスケ」は幸助(コウスケ)と判明

 厚生年金保険料の納付期間がひと月だけ足りないとされ、無年金だった東京都内の男性が今月、漏れていた記録を見つけ受給資格を回復した。69年に勤めた会社の記録に、誤った名前の読みが入力され放置されていた。社会保険庁は13年前にさかのぼり、月額7万5000円を支給する。ずさんな記録管理による「宙に浮いた年金」問題で、最も深刻な「無年金とされている人」の記録が訂正され、受給資格を取り戻したのが明らかになるのは初めて。【野倉恵】

 この男性は世田谷区の無職、松居幸助(こうすけ)さん(73)。54~90年に製薬会社など10社余りに勤務し、00年に世田谷社会保険事務所に受給申請したところ「納付期間が1カ月足りず、資格がない」と告げられた。

 受給資格は、現行では公的年金の加入が25年以上必要。厚生年金の場合、52年4月1日以前に生まれた人は、加入歴が20年以上なら60歳から受給できる。松居さんが窓口で確認したところ、納付期間は「239カ月」で20年には1カ月達していなかった。

 ところが、今月になって、松居さんが大手生命保険会社に勤めていたことを弟が思い出した。再度、社保事務所で調べたところ、69年2~4月の勤務当時の納付記録が見つかった。記録には本来「コウスケ」と入力されるべき名前の読みが「ユキスケ」と誤って入力されていた。このため、別人の記録として宙に浮いていた。

 厚生年金記録の氏名は79年以後に漢字から片仮名に変更されたが、社保事務所の入力・転記ミスなどに加え、社保庁が本人に確認しないまま漢字変換ソフトで字を置き換えたことなどから、誰のものか分からない「宙に浮いた年金」が大量に発生したことが明らかになっている。世田谷社保事務所は「誤入力の原因は不明だが、漏れた年金にたどり着くのが遅れ、申し訳ない」とコメントした。

 記録漏れなどで無年金になっている人の存在について、社保庁は実態不明としてきたが、今年5月以降は調査を進めている。

 ◇社保庁ろくに調べず 検索1度で「記録ない」

 「へその緒から栄養が行かず病弱だった私に、『助かって幸せに育つように』と幸助と名付けた」。親の願いが込められた名前の読みが誤って入力され、13年間も年金を受け取れなかった松居さん。「もっと早く年金をもらっていたら、ボランティアをするとか、生き方が違っていたはず」。受給が実現しても思いは複雑だ。

 松居さんは高校卒業後、製薬会社に就職。それから度々転職した。「もう年金がもらえるはず」と兄に促され、65歳のとき足を運んだ世田谷社会保険事務所。だが、職員はパソコンのキーを一つ押しただけで「これ以上、納付記録が見つからない」と言った。氏名の読みを変えて探すなど、漏れた記録のチェックは十分にはしてもらえなかった。

 仕方なく貯金を取り崩して暮らした。昨夏、公営団地で一緒に暮らした兄が亡くなり、自身も秋に脳内出血で倒れ、半年入院した。介護保険料を数年間滞納したが、弟が家賃も含め、なんとか負担してくれた。退院後、全日本年金者組合世田谷支部(酒井弘道・委員長)に相談し、記録漏れがないか探した。

 今月11日。世田谷社保事務所で正式に記録訂正が伝えられた。酒井委員長は「受給できるのに亡くなった人や、受給できることに気づかない人々がたくさんいる」と話す。総務省年金記録問題検証委員会の最終報告(昨年10月)によると、5095万件の「宙に浮いた年金」のサンプル調査の結果、1割が10年以上納めた記録だった。確認できれば受給資格を回復する人が多数いるとみられる。

毎日新聞 2008年7月22日 東京朝刊

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