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【社説】

淀川水系4ダム なぜ流域委を無視する

2008年7月22日

 国土交通省側が自ら設けた諮問機関の意見を顧みず、なぜ淀川水系の河川整備計画案に四ダム建設などを盛り込んだのか。住民の意見を反映させるとの河川法の趣旨はどこへいったのか。

 国交省近畿地方整備局の淀川水系河川整備計画原案(二〇〇七年八月)は、大戸川(だいとがわ)ダムと丹生(にゅう)ダム(滋賀県)、川上ダム(三重県)など四ダムの建設、再開発や調査・検討を盛り込んだ。

 同局の諮問機関・淀川水系流域委員会がダムの必要性の説明は不十分と、原案見直しなどを求めたが、同局は今年六月、大筋を変えず計画案として発表し関係府県知事と協議中だ。

 国交省側は、降雨時でもダムに貯水し河川の流量や水位を下げるのが、確実な洪水対策の一つとする。流域委側は、ダムの効果は誤差の範囲に収まるほど小さく、建設は不適切という。

 治水ダムの効果の判断は、専門的知識がないと難しい。双方に相応の根拠があり、真剣なことは疑えない。確かなのは、国交省側が流域委の意見を取り上げようとしないことである。

 一九九七年の河川法改正で、河川整備計画の案を作るのに必要なら学識経験者、関係住民の意見を聴くと定めた。その具体化の一つが流域委員会である。整備局が自ら設けた諮問機関の意見を無視するのは、極めて異常だ。

 〇一年二月発足の淀川水系流域委には一時、委員の数、会議の回数、運営の費用が多すぎるなどいらだつ声もあった。だが、公共事業の是非や進め方を悔いのないよう、ある程度の時間と費用をかけ検討するのは当然だ。

 九〇年代前半の長良川河口堰(ぜき)反対運動を機に、河川整備に住民の合意を重視、河川法が改正されたはずだ。現に徳島県・吉野川の可動堰建設は二〇〇〇年一月、徳島市の住民投票で反対が九割を超え、国交省の前身・建設省は事実上、計画を白紙に戻した。当時の柔軟な姿勢はどこへ行ったのか。

 建設省の発足は戦後で、河川整備を含んだ国の公共事業は明治以来、旧内務省が中心だった。住民の合意など問題にしない高圧的、強権的な手法もとられた。まさかこんな時代に逆戻りするつもりではないだろう。

 新任の近畿地方整備局長、同局河川部や淀川水系の出先事務所幹部らが、流域委メンバーといま一度徹底的に議論を尽くし、その結果を公開、広く流域の自治体や住民の判断を求めてはどうか。

 

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