社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:鉄道再評価 日本の総合力が問われている

 鉄道が世界的に見直されている。ガソリンや航空機燃料の価格が急騰する中で、少ないエネルギーで大量の輸送を可能にする鉄道の再評価が進んでいる。鉄道大国の日本だが、それに備えた対応が十分かというと、心もとないのが実情だ。

 国鉄の分割・民営化から約20年が経過した。JRの本州3社は完全民営化を果たし、JR東海が、リニア中央新幹線の独自整備を打ち出すまでになっている。

 個々の鉄道事業者は、利便性の改善や新規事業の開拓などに取り組んでいる。しかし、将来の鉄道のあり方をどうするのかという点を含め、鉄道が抱えている諸課題について国としても十分検討が必要だ。

 交通政策審議会の鉄道部会が「鉄道の未来像」という提言をまとめた背景には、こうした事情がある。

 死者が100人を超した福知山線脱線事故の惨事を繰り返さないため、安全対策を徹底することが必要だが、それ以外にも鉄道は解決すべき問題が数多い。

 ICカード乗車券が拡大している一方で、複雑な運賃体系に合わせるためには巨大なプログラムが必要となる。安定的な運用を確保するため、運賃や料金のあり方についても検討すべきだと提言は指摘している。

 ライバル路線に対抗するため、相互直通運転が拡大しているが、トラブルが起こると運転休止が全区間に及ぶ。また、整備主体が異なる区間をまたがって列車が運行される際に、初乗り運賃がかさんで負担感が増すといったことについても改善策を訴えている。

 利用者が減っている地方鉄道や、貨物鉄道の位置づけなどの課題もある。

 また、人口減少の中で、車両や信号なども含め、鉄道関連技術の継承と、新技術開発のための体制整備も必要だろう。

 一方、海外でも鉄道に対する期待が増している。人口増加と経済成長に伴いアジアの主要都市は、道路の渋滞が深刻化し、鉄道の建設計画が相次いでいる。

 新幹線など高速鉄道も、都市間交通の有効な手段として、導入をめざす動きが世界中で起こっている。

 ところが、鉄道に関する技術では、フランスやドイツなどが国際標準化に積極的に取り組み、省エネなど技術的に優れているにもかかわらず、標準化では日本が立ち遅れている。

 分割によって司令塔がなくなり、JR各社が技術開発を独自に行わざるを得ないという事情も働いているのだろう。

 いずれにしても、鉄道が世界的に再評価されているにもかかわらず、日本の鉄道産業が総合力を発揮できるような体制ができていないことは問題だ。

 国内の鉄道が抱える諸課題に対応しつつ、国際的にも日本の鉄道産業が実力を発揮できるよう、官民が協力した具体的な対応を期待したい。

毎日新聞 2008年7月22日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報