「県」も、既得権にしがみついてはならない。政府が進める分権改革で都道府県から市など基礎自治体への権限移譲も焦点となっている。さきに地方分権改革推進委員会がまとめた勧告では64法律、359項目に関係する包括的な権限移譲を都道府県に促した。
国から地方への分権が進む中で、住民に身近な行政を県から基礎自治体に委ねることは自然な流れだ。大分県で問題化している教職員人事についても、県教委が市町村立校の人事権を掌握する仕組みを見直していくのが原則だ。「地方間分権」を加速すべきである。
さきの分権委の1次勧告では国から地方への分権と同等に、まちづくりや福祉など幅広い分野で都道府県からの分権を意識した。たとえば市街化区域の決定権を政令指定都市に、特別養護老人ホームや保育所の設置認可権を市に移すよう、それぞれ求めている。ただ、移譲先はほとんど「市」が対象であり、町村へはわずか28項目にとどめた。「平成の大合併」を経て、市を分権の受け皿の中心に据える方向を明確に打ち出したと言える。
論議を呼びそうなのは、政令指定都市を除き都道府県教委が持つ市町村立小中学校の教職員人事権だ。勧告は人事権や学級編成基準作成の権限を、他の市に先行して中核市(人口30万人以上)に委ねるよう求めた。中央教育審議会も05年、中核市への移譲を答申したが、地方の人材格差の拡大を懸念する声もあり、実現していない。
大分の採用汚職を引き合いに、人事を市に委ねた場合、さらに縁故人事が進むと懸念する見方も政府内にはある。一方で、市町村の教員人事を県が握るシステムが、権限集中と閉鎖性の温床である面も否定できない。義務教育は子供のいる地方の自主的な活動が本来の姿だ。人事選考基準の透明化を徹底し、周辺自治体との協力体制にも配慮したうえで中核市に権限を移すことが望ましい。残る市町村への移譲も、一定の圏域で人材を調整する枠組みを検討すべきだろう。
テーマに応じ、国からの分権と一体化して地方間分権を進めることも肝要だ。福祉施設の認可権限が県から市に移ったとしても、国が設置基準を細かく縛ったままでは、自治体は身動きが取れない。こうした国の規定の見直しを並行させ、初めて分権の効果が出る。
政府は来年春ごろまでに地方間分権の具体案を決める。都道府県には権限移譲に慎重論もある。市への分権が進めば県の存在意義が問われ「道州制」論の追い風となる可能性もある。
一方で、市との権限格差が広がれば町村が反発することも予想される。地方同士が反目して分権全体を失速させないためにも、政府は町村の将来像に関する議論を急がねばならない。
毎日新聞 2008年7月22日 東京朝刊