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2008年06月24日【】新聞が報道しない「朝日新聞社とテレビ朝日の資本・業務提携」の゛舞台裏゛
今日、大阪で朝日新聞社の株主総会が開かれ、6月6日に発表されたテレビ朝日との新たな資本・業務提携案が正式に承認されました。朝日新聞社といえば、日本を代表するクオリティペーパーを発行する言論機関ですが、その経営に大きな影響力を持つ3分の2近い株は、長年に渡って社主家である村山家と上野家に支配されてきました。これは他の大新聞ではあまり例のない資本関係です。実は、朝日新聞社が先日発表したテレビ朝日との資本・業務提携案の本当の狙いは、この社主家からの゛呪縛゛から逃れる巧妙な戦略だったことが明らかになりました。
6月6日午後6時、朝日新聞社の秋山耿太郎社長とテレビ朝日の君和田正夫社長が東京プリンスホテルで緊急会見を開き、新聞・放送メディアの融合を目指す新しい資本・事業提携の枠組みを発表しました。テレビ朝日の君和田社長は、「朝日新聞社株取得の最大の理由は、提携の強化・拡大と新分野への進出だ」と語り、朝日新聞社の秋山社長も、「メディアの激動期にある。テレビ朝日も朝日新聞も勝ち残るために決断した。また相互保有と、新聞株の長期的安定の2つの側面がある」と強調しています。しかし、関係者の間で、その発言を額面通り受け取るものはほとんどいません。
「今回の枠組みは、表向きはクロスメディア戦略とかいうものだが、実態は36%以上ある87歳の村山美知子社主の支配力を排除し、相続税問題でその相続株が最悪の場合国庫に物納されることを防ぐための安定株主工作だ」(朝日新聞社幹部)
資本の移動は6月6日、同時に行われました。まず村山美知子社主名義の36・46%のうち、11・88%(38万株)が1株6万3000円(総額239億4000万円)でテレビ朝日に売却され、9・97%が村山家ゆかりの香雪美術館に寄贈されました。これを受けて、朝日新聞社は保有する33・85%(子会社の衛星チャンネル保有分を含めれば35・92%)のテレビ朝日株のうち、5%を1株15万円(総額75億4500万円)で村山美知子社主に譲渡し、このテレビ朝日株は直ちに香雪美術館に寄付されました。朝日新聞社とテレビ朝日の新たな事業・資本提携であるはずなのに、いったい、なぜこんな複雑なことをするのでしょうか──。
「ようするに、美知子社主に朝日新聞社株を手放してもらうための大芝居だ。テレ朝はその買い取りの受け皿と資金調達の役割を担わされ、朝日新聞社はそのテレ朝株を担保として美知子社主に譲渡したわけだ」(社主家関係者)
その結果、朝日新聞社の上位10位の株主比率は、①村山美知子社主(36・46%から14・61%に減少)②上野尚一社主(12・81%)③朝日新聞社従業員持ち株会(12・03%から12・76%に微増)④テレビ朝日(新たに11・88%持つ第4位の株主に)⑤香雪美術館(新たに9・97%の第5位の株主に)⑥村山美知子社主の甥・村山恭平(5・00%)⑦村山美知子社主の妹・村山富美子(3・57%)⑧上野社主の次弟・上野克二(3・34%)⑨上野社主の末弟・上野信三(3・34%)⑩朝日新聞社役員持ち株会(1・48%)となりました。そのため、村山家の保有比率は45・03%から28・18%に低下し、村山家ゆかりの香雪美術館名義を含めても3分の1以下に減少しました。さらに、村山家と上野家を合わせた社主家全体の保有比率も、それまでの64・53%から47・68%と過半数割れに追い込まれたのです。
非上場とは言え、連結資産を6000億円を上回る朝日新聞社が、社主家に3分の2近くの株を支配されてきたこと事態が異常だったのですが、今回の資本・業務提携は別の意味で大きな問題点が指摘されています。
「問題なのは、今回のテレビ朝日の240億円にのぼる朝日新聞社株の購入資金の実態が、会見で発表されたような新聞と放送事業のクロスメディアなどという目的ではなく、テレビ朝日の筆頭株主企業である朝日新聞社の゛お家騒動゛問題を解決するための朝日新聞社株の購入資金であることは明白だ。240億円という資金はもともとテレビ朝日が証券市場から集めたものであり、その資金の目的が市場に正しく開示されていないことは市場を騙していることになる」(市場関係者)
朝日新聞社は、なぜこうした批判を覚悟の上で、テレビ朝日の資金を使って村山美知子社主名義の株の譲渡先を急いだのでしょうか──。
「今年88歳になる村山美知子社主に万が一のことがあれば、34%以上の朝日新聞社株の相続問題が現実となる。総資産6000億円以上の非上場企業・朝日新聞社の株は、1株当たりの純資産でも9万円を超えるため、34%全体の相続税は1000億円近くになる。法定相続人である妹・富美子氏とその長男・恭平氏が美知子社主の相続税を払えなければ、朝日新聞社株が国庫に物納される最悪の事態も想定される。そのため、朝日新聞社の秋山社長は、昨年末ことから美知子社主の邸宅のある神戸市御影を何度も訪ね、保有する34%以上の株の譲渡先についてしかるべきところに引き取りたい、と懇願していた」(朝日新聞社幹部)
秋山社長が当初提案した案は、グループの財団法人である朝日新聞文化財団に寄付してもらう提案でした。しかし、一旦は了解した美知子社主が今年になってから心変わりして、話は白紙に戻りました。村山家に近い関係者はこう語っています。
「創業者である祖父・村山龍平氏の美術品を管理する香雪(龍平氏の雅号)美術館に寄付したい、と美知子社主が言い出したため、急遽、この香雪美術館を受け皿にした譲渡案が新たに作成されつつあった」
事態が急展開したのは5月中旬です。美知子社主が突然、心臓疾患で倒れ、危篤寸前の状態に陥ったのです。幸い、容態は持ち直したものの、心臓にペースメーカーを埋め込む緊急手術を6月上旬に行うことになったため、最終的な回答を引き延ばしていた美知子社主も、秋山社長に譲渡案を一任することに最終的に同意したのです。そこで朝日新聞社が考えた譲渡案は、朝日新聞社が直接美知子社主の株を買い受けるのではなく、テレビ朝日と美知子社主と間で朝日新聞社株の譲渡契約を結ばせ、朝日新聞社は保有するテレビ朝日株を美知子社主へ譲渡するという巧妙なシナリオでした。
「朝日新聞社では長年、社内価格を1株1600円に固定してきたため、美知子社主と直接1株6万3000円で買い取れば、安く買い取られた朝日OBから集団訴訟を起こされかねない。そこでテレビ朝日をかませたわけだ。さらに、朝日新聞社は、そのテレビ朝日株を美知子社主へ売却(美知子社主は直ちに香雪美術館へ寄贈)すれば、美知子社主の機嫌をとることもできる。一番得したのは、一銭の資金も使わずに美知子社主の保有株を低下させ、さらに保有するテレビ朝日を75億円以上で美知子社主に売りつけた朝日新聞社だ」(社主家関係者)
しかし、これで全てが終ったわけではないようです。
「実は、もう一つの社主家である上野家と、美知子社主の妹・富美子氏と甥・恭平氏には、一切今回の交渉内容は伝えてられなかった。もともと60年代に起きた朝日新聞社の゛お家騒動゛である『村山事件』以降、朝日新聞社と敵対してきた美知子社主と、朝日新聞社側についた上野家と、それに同調した妹・富美子氏との微妙関係が、今回の譲渡問題をきっけにますます複雑になってきた」(同)
そのため上野家は、保有する朝日新聞社株の問題について、朝日新聞社側と今後独自で外資系投資銀行を仲介させて直接交渉する動きに出ているようです。
「相続問題は上野家も同じことだ。しかも、今回の譲渡によって、同族支配株主だった村山家の保有比率が30%を切ったため、15%以上持つ上野家も同族支配株主と認定され、相続税の安い配当還元方式から時価総額方式に切り替わるため、それまで想定していた相続税が100倍以上に跳ね上がることになる。これは上野家に対する譲渡圧力に働くことは確実で、社主家の株譲渡問題は上野家の中心とした゛第2幕゛に突入することになるだろう」(社主家関係者)
一方上野家側は、「社主に譲渡先を決められる」という条項を定款に加えるための株主提案を突きつけ、交渉の行方によっては、臨時株主総会の召集を要請する可能性もあるようです。さらに入院中の村山美知子社主に万が一のことがあれば、14%以上の朝日新聞社株の相続問題も新たに持ち上がってきます。朝日新聞社で勃発した反村山家のクーデターである「村山事件」から45年以上経た今、再び朝日新聞社を巡る新たな゛お家騒動゛が始まろうとしています。
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