きょう二十一日は「海の日」である。四方を海に囲まれたわが国の海洋政策を総合的に進める海洋基本法が昨年七月二十日に施行されてから一年になる。今年三月には、今後五年を見通して、政府が進める施策を盛り込んだ海洋基本計画が初めて策定された。わが国の海洋政策は今、大きくかじを切り始めたところだ。
海洋基本計画で示された主要施策の一つが、海洋資源の開発及び利用の推進だ。排他的経済水域(EEZ)の海底での探査・開発の対象として、将来のエネルギーとして期待されるメタンハイドレート(メタンガスが地中で氷結した個体)と、希少金属を含む海底熱水鉱床を挙げ、今後十年程度で商業化を目指すことが打ち出された。
さらに、海洋資源開発に向けた取り組みを確実に進めるため、国と企業の役割分担などを定めた「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(仮称)」を本年度中に策定することにした。最近原油をはじめ、国際的な資源価格の高騰が、わが国経済に影を落としている。自前の資源開発を計画的に進めることは、一層重要になるだろう。
ただ、近隣諸国との関係は留意しなければならない。中国とは東シナ海のガス田の共同開発で合意したものの、境界線問題は棚上げされたままだ。韓国とは竹島(韓国名・独島)の領有権で対立しており、日本の新学習指導要領解説書へ竹島を明記したことが現在、反発を呼んでいる。領土問題は協調路線の枠組みの中、ねばり強い対話が欠かせない。
農産物はじめ原材料、工業製品など多くを海外から輸入するわが国だが、ここ数十年での日本人船員や日本籍船の激減は、生命線ともいえる海上輸送を脅かしている。国際競争が激化する中、外国人船員の採用を進めたことなどによる。海洋基本計画では、テロなどの非常時でも安定的な海上輸送ができるよう日本人船員を十年間で一・五倍、日本籍船を五年間で二倍に増やす目標を盛り込んだ。
このほか、沿岸域の総合的管理を推進することが基本計画に掲げられた。瀬戸内海でも課題になっている海ごみ対策などを関係機関が一体となって取り組むうえで、足掛かりになるよう期待したい。
わが国を取り巻く領海とEEZは、合わせると世界六番目という広大さだ。その海の恵みをどう生かすかは、資源をめぐり国際的な競争が激化する中、重要な戦略といえよう。海洋基本法の目指す「新たな海洋立国」の実現へ、施策を着実に進めていくことが必要だ。
世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)閣僚会合が、二十一日からジュネーブで開かれる。関税の引き下げ率など貿易自由化のルールを決める「細目合意」の達成に向け、大詰めの段階だ。
年内の最終合意を目指す交渉は、農業と鉱工業の二つの分野を中心に国家間の溝が埋まっていない。会合には主要約四十カ国の閣僚が参加するが、早くも自国の利益を守ろうとする強硬発言が相次いでおり、協議は難航が予想されよう。
合意の成否を左右するのが米国の農業補助金問題だ。手厚い補助金が安い農産品の輸出につながり、途上国の農業を圧迫しているとして、各国は大幅な補助金削減を要求している。
一方、日本や欧州連合(EU)など食料輸入国が守勢に立たされているのが農産品の関税率引き下げだ。輸出国の米国やブラジルなどが大幅削減を求めている。鉱工業品では途上国の関税の上限を引き下げるよう先進国が主張している。分野ごとに攻めと守りの立場が入れ変わる複雑な構図だ。
日本は今回、農業分野で関税引き下げの例外扱いとなる「重要品目」の十分な確保を最重要課題としている。コメなどに高関税を維持して農家を保護するためだ。「重要品目」の数を全品目の10%以上を目標にしていたが、ジュネーブ入りした若林正俊農相は事実上8%に引き下げるとの判断を示した。たたき台となる最終議長案の「4―6%」に歩み寄った格好だ。
先の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の議長総括では「ドーハ・ラウンドの妥結に向かって努力する」と盛り込まれ、交渉の推進が確認された。妥協点を見いだすためには、各国が知恵を出し合うことだ。交渉をつぶしてはならない。
(2008年7月21日掲載)