◎タクシー再規制 利用者にメリット出るのか
タクシーの供給過剰問題で、国土交通省は石川、富山県内など全国八割の営業地域で、
増車や新規参入を制限する規制強化に乗り出した。タクシー業界は二〇〇二年に規制緩和が行われたが、その後、各地で需要が伸びないまま台数が増加した。それによって悪化した乗務員の待遇改善が軌道修正の主な理由である。
供給過剰だから規制するというのは分かりやすいが、台数増加に上からふたをかぶせる
だけで需給が均衡し、乗務員の待遇向上に確実につながるだろうか。低賃金、長時間勤務など劣悪な労働を強いる事業者にはむしろ労働行政で厳格に対処すべきとの指摘もある。
需給バランスが取れて乗務員の待遇がよくなり、結果として接客サービス向上や多様な
割引制度が登場して利便性も高まる。これが望ましい姿であろう。国交省は利用者にメリットが生まれる規制強化後の道筋も示してほしい。
国交省は増車審査を厳しくする特別監視地域に石川、富山県で二十一区域を指定し、こ
のうち金沢、南加賀、富山、高岡・氷見の四交通圏は新規参入も規制される特定特別監視地域となった。来年の通常国会に営業台数削減を柱とする道路運送法改正案を提出する方針で、今回の規制は駆け込み参入や増車を防ぐのが狙いである。
規制緩和で業界内で淘汰が進むとみられたが、事業者は一台当たりの減収を増車でカバ
ーし、全体の利益を確保しようとした。その結果、乗務員の賃金が下がり、勤務時間が長くなるなど労働環境が悪化したとされる。歩合重視の賃金体系や利用者が車を自由に選べない特殊性など、タクシー業界は市場原理が働きにくいことも分かった。
だが、競争を通じて経営改善やサービス向上を促すという規制緩和の狙い自体は間違っ
ていないだろう。国交省はその功罪を徹底的に検証し、業界の構造改革につながる施策を打ち出してほしい。
東京や地方都市、過疎地ではタクシーを取り巻く環境は大きく異なる。金沢のように流
しが収益の柱になる都市や、そうでない地域もある。全国一律に規制の網をかぶせることの妥当性についても検討する必要があるのではないか。
◎内閣改造の判断 政権浮場へ大きな賭け
福田康夫首相は内閣改造という賭(か)けに打って出るのか。福田首相の夏休み入りと
ともに、政府・与党の間で、期待と不安が交錯する声が漏れ出している。装い新たな「福田カラー」が首尾よく国民の支持を得られれば、支持率アップが望める一方、新閣僚に不祥事が発覚するなどしたら、それこそ致命傷になりかねない。反転攻勢の数少ないカードである内閣改造に踏み切るかどうかの判断は、福田首相にとって大きな試練となろう。
昨年九月に成立した福田内閣は、前内閣をほとんど「居抜き」で引き継いだ。そろそろ
「自前の内閣」をつくり、攻勢に打って出よと、はやす声が高まるのは当然だろう。首相の権力の源泉である解散権と人事権のうち、ここで人事権を行使しておけば、次は解散権を自分の手で行うという意思表示になるとの読みもあるはずだ。
だが、人事カードの切り方は、なかなか難しい。派閥を重視して、年功序列型の順送り
人事をすれば、野党の集中砲火を浴び、国民にソッポを向かれる可能性がある。さりとて、福田首相に小泉純一郎元首相のような独断的な人事を期待するのも難しい。党内に亀裂を残さず、人心一新を演出する手腕が問われることになろう。
また、自前の内閣をつくるなら、政権の特色を打ち出し、国民の心に響く政策もいる。
顔ぶれを変えるだけでなく、国民に向けた強いメッセージがないと、支持率アップにはつながらないからだ。魅力的な旗印を高く掲げることができるのかどうか、夏休みの難しい「宿題」になるかもしれない。
福田首相は、北海道洞爺湖サミットを成功させ、その勢いで求心力を高めるシナリオを
描いていたのだろうが、サミット後も支持率はほとんど変わらなかった。そうなると、小泉政権で、支持率が10ポイント以上アップした〇三年九月の内閣改造に目が向くのは当然だろう。安倍晋三氏を幹事長に登用した内閣改造は、大きなサプライズとなり、小泉元首相の決断を評価する声が高かった。福田首相は、そんな権力者の「凄(すご)み」を発揮できるだろうか。