ゲイリー芦屋さま。

「ルフラン/めざめ」届きました。送って戴きまして、有難うございます。

ジャケットが素晴らしいですね。
何故か、70年代のワーナー・パイオニア・レーベルのジャケット・デザインを思い出しました。ペドロ&カプリシャス?上田知華とkaryobin?グレープ?それともドゥービー・ブラザーズのセカンド・アルバム?グループ名のロゴの配置のせいでしょうか。

そしてもちろん高木麻早さんと太田裕美さんも連想しました。とにかくジャケットの女性(この方がルフランアサコさん、なのですよね。)の白いロングドレスが素晴らしいです。

ぼくの好きなデジパック仕様のジャケット。中を開くと、歌詞カードのブックレットと、モノクロームのフォトカードが一枚。そうしてCD盤をトレイから外すと、おお、白いギターを持って窓辺に立ったルフランアサコさんと一緒に写っているのは、間違いなくゲイリーさんですね。茶色いアップライト・ピアノの前に坐っている姿がいいですね。サングラス無し、のほうが良かったと思いますが。ダカーポ、みたいな感じで。でも照れくさいから、サングラスだったのでしょうか。

まずは歌詞カードを読まずに、ちょっと仕事をしながら、通して一度聴きました。1曲目で、早くもリスナーを「いま、此処ではない何処か」へ連れて行ってしまうことに成功していると思いました。バックのオーケストレイションもさすがの緻密さですが、もはや耳はそうした細部に注意するよりも、ルフランアサコさんの声の細やかな表情の揺らぎを聴き逃すまい、と焦点を定めていました。この時点でゲイリーさんのプロデュースは成功している、と思いました。

2曲目、「小さなチャンス」という曲、これが本当のスターター・チューン、なのでしょうか。70年代の歌謡ポップスの一典型、みたいなメロディとアレンジが楽しい曲でした。穂口雄右、みたいな、といったらよいのでしょうか、エレクトリック・ギターが前奏や後奏のフレーズを歌い、ベースが4分音符を弾くこの編曲スタイルは、アジアでもヨーロッパでも流行したスタイルでしたが、いまは知る人もいないのでしょうね。

「お友達でいましょうよ」これがいわゆる「押し曲」「オンエア推薦曲」に当たるトラックでしょうか。素晴らしいオーケストレイションに圧倒されました。こういう、ちょっと身も蓋もないフレーズの歌詞って、近田春夫さんとか、モダンチョキチョキズみたいな感じなのかな、と思ったのですが、そういうワザと毒を盛った、という感じではけっしてない、けれどもそこにやはり毒があるような、フックのある歌詞だと思いました。

そして再び、「愛の花言葉」。エレクトリック・ピアノと、声のリヴァーブが雰囲気を出してました。

「青い月」イントロの弦とパンフルートが秀逸。若草恵さん、というか、瀬尾一三さんというか。この曲はミキシングのドライな感じがビクター、というか、クラウン、という感じですね。すごく良く出来たレプリカ。

ラストのヴォードヴィル調のトラック。ブレイクにスライド・ギターが、ブリッジにシンセが使われているのが素晴らしい。でも、いきなりここで終わってしまうのは、やはりLPレコードの片面、ということでしょうか? それはひじょうにコンセプチュアルだと思いますが、やはりここまで来たらB面が聴きたくなりました。

いまの時代の、というか、ある時期以降に日本で音楽を作っている人は、どうしても、作っているそばから、自分のことを醒めた目で見てしまうようなところがあって、それは美徳でもあり、弱点でもある、と思うのですが。

でも、こういうのは、恋のように、熱病のように、とことんやりつくして、自分でも夢から醒めたとき、オレ何やってたんだ、と放心状態になるくらいまでやったとき、初めて誰かを感動させることが出来るというものです。だから、次もたいへん期待しています。サングラスも取ってしまったような、シャレにもならないような傑作を、また待っております。

素晴らしいCDを有難うございました。

以上、ゲイリーさんに御礼と感想のお手紙、と思って書き出したのですが、途中で思い立って、公開書簡とさせていただきました。ゲイリーさん、怒らないでくださいませ。お友達でいましょうね。なんて。でも、とにかく、いま、ぼくの周りでは話題騒然の作品であることは間違いありません。皆様、ぜひ聴いてみてください。誰だって信用出来るのは自分の耳だけです。

さて、ビーチェさんもいよいよ明日発売。各誌絶賛。いくつかの雑誌で、小西康陽プロデュース、と大きく書かれているのを見ましたが、今回、ぼくは本当に何もしてません。作詞・作曲・編曲。ミックスダウンも、マスタリングも全てビーチェさんが担当。ぼくがやったのは、せいぜい幾つかの曲でタイトルを提案して、いくつか採用されたことぐらい。あとは、仮ミックスが届く度に、最高、とか言っているだけでしたので。でもこのアルバムに、ほんの少しでも関わることが出来たのは、自分にとっても光栄なことでした。あとは皆様、ぜひ聴いてみてください。誰だって信用出来るのは自分の耳だけです。リピートしてます。

本日の「レコード手帖。」は久し振り、ぼくの大好きな太田浩さんの連載が帰ってきました。3日連続・夏季集中講座。カイリー・ミノーグ。きゃー。ルフラン・ビーチェ・カイリー。何だかスゴイです。では、更新しまーす。

(小西康陽)