行政の壁を越えて、救急医療を守る試みが始まっている。大阪府泉佐野、貝塚両市の市立病院が互いの産婦人科を統合し、4月に発足させた「泉州広域母子医療センター」。両病院の医師が当直や手術をともにし、勤務負担が格段に軽くなった。搬送先が見つからずに妊婦が死亡するなど、医師不足が特に深刻な産科救急の模索が続く。
休日の昼間、泉佐野病院で当直をしていた貝塚病院の釣谷香揚子(つりたに・かよこ)医師(28)のPHSが鳴った。「卵巣が大きく腫れ、腹痛を訴えている女性がいる」。近隣の民間病院からの転送依頼だった。
「これはオペ(手術)だな」。もう1人の当直、泉佐野病院の福井温(おん)医師(41)と合意。釣谷医師が診察する間、福井医師が麻酔科医と連絡を取るなど準備を進めた。手術は夕方、無事終わった。
「当直が2人いるだけで安心感は何倍も大きい」と福井医師。帝王切開など緊急手術の大半は産科医が2人いればできるが、統合前の当直は両病院に1人ずつだった。
日本産婦人科医会の調査では、産婦人科勤務医の1カ月平均の当直回数は06年度で約6回。外科・内科の約3倍だ。しかも、公立病院は1人当直がほとんど。激務や医療事故の不安から若い医師に敬遠される悪循環が続く。
両病院は統合を機に当直を泉佐野に集約し、2人態勢を整えた。開業医や大学病院の勤務医から「2人なら」と応援を申し出る動きが広がり、当直医の約3分の1は応援組。昨年は月8、9回あった釣谷医師の当直は半減した。
統合は、両病院に医師を各5人派遣してきた大阪大が06年秋、「医師不足で派遣を続けるのは難しい」と伝えてきたのがきっかけだ。岸和田市以南の府南部でお産ができる公立病院は両病院だけ。「共倒れ」を防ぐ狙いがあった。
病院の特性に応じて機能を分けた。新生児集中治療室(NICU)を備える泉佐野はお産と緊急手術を受け持つ。お産を1カ所に集約することで、若手医師が重症の症例を実体験できる機会も増える。一方の貝塚は事前に予定が組める手術を担う。外来・入院は引き続き二つの病院で受け付け、サービスが低下したとの印象を持たれないよう努めている。
貝塚病院の長松正章副院長は「一病院がすべてを担うのはもう無理。今回の取り組みが突破口になれば」。泉佐野病院の光田信明・産婦人科部長は「医師が魅力を感じる病院になる必要がある」と力説する。
統合を資金面で支えるため、泉南市など近隣1市3町も経費分担に応じた。大阪府も歓迎し、予算案に補助金約2500万円を計上。同府泉大津、和泉両市も来夏、市立病院の産婦人科を事実上統合する方針を決めている。(加戸靖史、滝坪潤一)