書き直すことは、よくすることか?

見沢知廉 一周忌(池内ひろ美の考察の日々)
葬儀や一周忌に出席するたびに思うことがある。

人ってのは、あんがい冷たいものだな。
生きているうちに、見沢知廉と関わりのあった人はこんなに少数ではなかったはずだ。見沢知廉に近付いた人は多くいただろうし、仕事で関わった人(原稿を書かせるときには良い顔をして近付く編集者とか)も多数いただろう。しかし、彼に十回以上も書き直しをさせた編集者は来ていたんだろうか。

あの頃の見沢知廉は本当に苦しそうだった。十回を超えて書き直しをさせられると自分が何を書きたいのか分からなくなると言っていた。もう自分の文章ではなくなるとも言っていた。

この編集者がどの程度の直しを見沢氏に依頼していたのか、
僕には知るよしもない。

とはいえ、10回以上の書き直しとなると、表現レベルの直しではなく、
元の原稿とはまったく別のものになってた可能性も少なくないだろう。


編集者という人種は(よほどおかしな人間でないかぎり)、
「よりよくする」ことを第一に、著者に加筆・修正をお願いし、
またケースバイケースで自分で原稿に手を入れる。

すべては、よりよい表現、構成、本をつくるため。

と言いつつも、自分の舵取りで、100パーセント
「よりよいもの」が出来上がるとは限らない。

書き直して、書き直して、さらに書き直して改変された原稿が、
ただの改悪でしかない可能性がまったくないとは言い切れない。


プロの編集者である限り、「よりよいもの」をイメージし、
それに近づけるための努力は日々していることだろう。

しかし、いくらその精度を高めようと、間違うことはあると思う。

少なくとも、自分が手を入れることが「余計」なのかもしれない、
という一抹の不安を抱いたうえで仕事をするという姿勢は必要だ。


どんな人間も完全ではない。

完全ではないからこそ、「よりよくする」ことを追い求めるのだろうが、
なにが「よいもの」なのかは、慎重に慎重に吟味しなければいけない。
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by aru-henshusha | 2006-09-12 14:26 | 本・出版 | Trackback | Comments(9)
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Commented by SUREFIRE at 2006-09-12 15:46 x
うわ〜,我が社の編集者には想像もできない世界です!
書き直しを依頼することは,あまりありませんし.
ただ,専門書なので校正や間違いの指摘はさせていただきます.

小説などでも書き直しするんですね・・・.
文体や言い回し,表現などまで直したら,作者の作品ではなくて編集者の作品にもなってしまいそうです.
小説などで『より良く』と言うとき,どのような事を指しているのかな,と考えてしまいました.
この手の本の編集では素人に近い私は,『作者の持ち味が充分に出ている作品』が『より良い』本と思ってしまいます.
勿論,何作も書くうちに,作風に様々な変化が起きるのでしょうから,その軌道修正も必要にはなるのでしょうね・・・.
(^_^;)

一般誌,小説などの編集は大変そうですね・・・.
(>_<)
Commented by ポチ at 2006-09-13 00:55 x
>書き直すことは、よくすることか? ←します。(基礎が未熟ゆえ)
 
「よりよいもの」のイメージ、作品のイメージ(世界観やテーマ)は最初に編集者とよくよく話します。お互い核がしっかりしていれば無茶なことにはなりません(話し合いによる最終決定権は私にくださいますが・・・イヤと言えない雰囲気をかもしだす場合も)
 独身のくせに(例)熟年離婚・夫婦 をかくには既婚編集者のダメだし参考になります。その意見をうまく料理して自分のものにしてそれ以上にすればいいんだ!と思うことにしてます。(ホントはこんなに甘えていてはダメですが) 本や雑誌によって読者層は違うと思いますが、私の場合はわかり易く読みやすいものでなくてはなりません (本当はドロドロしたいけどNG) 作品自体や、読者を大切に考えてくれる編集者はわかります。伝わってきます (わたしには冷たいときもあるがね)
Commented by 池内ひろ美 at 2006-09-13 01:37 x
TBありがとうございます。
当時の、見沢知廉の文章も知識も思考力もけっして稚拙なものではありませんでした。
彼は、担当編集者の書き直し要求に必死に応えて、あげく脳疲労で入院しました。
Commented by ある作家 at 2006-09-13 03:31 x
何度も書き直すと本当によくなっているのかわからなくなってきますね。なぜ10回もの書き直しが必要だったのでしょう?
Commented by Kee at 2006-09-13 13:20 x
横暴な偏執者だったとしたら、可哀相ですね。
Commented by aru-henshusha at 2006-09-13 13:44
>SUREFIREさま
ジャンルによっては、書き直しをお願いするのが稀なものもありますよね。
こちらの知識では、間違いがあったとしても、指摘できないというか。

文芸については僕は不勉強なのですが、他の本以上に慎重に手を入れる許可をいただいてるかと思います。

昔、TV番組で幻冬舎の社長が五木寛之氏に、この主人公だったらこんな銘柄のタバコは吸わない、と修正をお願いしてる場面があった気が……

>ポチさま
最初におたがいのイメージをすり合わせていく作業は大事ですよね。
それがうまくいけば、出来上がった原稿がイメージと大きく違うということも少ないでしょうし。

人間、あらゆることを経験しているわけではありませんから、経験者の意見は参考にしたいものですね。
Commented by aru-henshusha at 2006-09-13 13:45
>池内ひろ美さま
想像だけで物を申し上げるのはよくないですが、担当編集者との相性があまりよろしくなかったのかもしれませんね。

もしも他の編集者だったなら、同じテーマでも、もっと早くかたちになっていたのかもしれません(編集者の妥協、という意味ではなく)

>ある作家さま
こればかりはわかりませんねぇ。

そこまで書き直しが必要ならば、本来、他の著者にお願いすべき原稿だったのかもしれません……

>Keeさま
実際のところは何とも言えませんが。

書き直す前にお互いの意見をすり合わせるとか、何かやり方があったのかもしれません。
Commented by yukae-no-jinsei at 2006-09-13 21:09
書き直ししなくてもいいというのは、
それで完璧だと思うからではないでしょうか。
作者はひらめき型と推敲型に分けられるようですし。
でも編集者の書き直しは、曲で言えば編曲ですね。
イメージ変わるじゃん。
まあ私としては面白けりゃ何でもいい人です。
Commented by aru-henshusha at 2006-09-14 13:53
まあ、そこまで完璧な原稿というのはポンポンあるわけではなく、むしろ自分が手を入れるのはマイナスになりはしないか、というのが不安ですね。

曲で言えば編曲とは、なるほど。
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