「ダビング10」対応機器のミドルウエア更新を体験してみた権利者団体との交渉が難航し,その実施が危ぶまれたこともあった「ダビング10」の運用が,2008年7月4日午前4時に始まった。そこで筆者は,実際に対応機器のミドルウエアの更新を行ってみた。今回は,そのときの様子をレポートする。 「ダビング10」は,HDD(ハードディスク駆動装置)に蓄積されたデジタル放送の番組を9回までダビングすることを可能にする。一般の視聴者にはまだ分かりづらい仕組みであり,ケーブルテレビ(CATV)の単体のSTB(セットトップボックス)などは対象になっていない。ただし,ケーブルテレビ(CATV)統括運営会社(MSO)傘下のCATV局に導入され始めたHDD内蔵型の一部の機器については,対象に含まれているものはある。レコーダーに関してはあくまで,HDDを内蔵した機器だけが対象になる。また,「ブルーレイディスク(BD)ドライブとHDDを内蔵した機器だけが対象になる」と誤って理解している関係者も見られた。 過去には,「ダビング10の受益者の利益は,コンテンツの権利者が所有する利益から見れば少ない。そのため,ダビング10を実施する社会的意義が感じられない」といった趣旨の発言まであった。そこで筆者はダビング10を自ら体験し,その利益を検証することにした(写真1)。 BSのエンジニアリングスロットで更新データを受信機器のミドルウエアを更新するデータは,NHKの地上デジタル放送波とBSデジタル放送波を通じて送られてくる。BS放送波の場合は,デジタル放送推進協会(Dpa)が所有するエンジニアリングスロットを利用する。つまり,対象となる機器の電源を待機状態にしておけば,自動的に内部のミドルウエアを更新してくれる。地上デジタル放送波よりもBSデジタル放送波の方が大容量であるため,短時間で更新が終了する利点がある。 ただしBSデジタル放送波の場合は,降雨減衰によって更新作業が途中で終了するといった問題もある。いずれにしろ,どのタイミングで自分が所有する対象機種に更新データが送り込まれるのかについては,メーカーのWebサイトで詳しく紹介されている場合が少なくないので,留守録画などを頻繁に行うユーザーは注意を払ってほしい。筆者は7月6日の深夜までNHKのBS-1を視聴した後に電源を待機状態にして,翌7日午前1時前の更新タイミングを待つことにした。 更新を行うとダビング可能な数字が示されるようになった実際に,シャープの「AQUOS」の最新機種である「LC-46RX5」によって,BDレコーダー「BD−HDW22」のミドルウエアを更新するようすをリアルタイムでチッェクしてみたところ,レコーダーが立ち上がってから10分もかからずに作業は終了した(写真2)。この後,HDTV(ハイビジョン)の番組をBDレコーダーのHDDに録画し,その番組をBD(BD-RE)に2度ダビングした。 ダビングするたびに,テレビ画面に表示されるダビング可能な回数が減っていく(写真3)。例えば,引退するミュージシャンのライブ映像をHDDに録画する。一つは自分用として,HDTV画質でBD(BD-REまたはBD-R)にダビングする。もう一つは,家族がDVDプレーヤーで再生できるようにダビングする。また、最高画質でDVDの記録時間が短ければ,数枚に分けてDVDにダビングできる。 こうしたデジタル放送のエアチェックは,コピーワンスの時代には不可能だった。「アナログ放送時代にできたことができなくなり,エアチッェクをしなくなった」という視聴者のレコーダーの購入意欲を喚起し,視聴者利益を保護するものだ。また近い将来,個人的にホームユースする高画質のエアチッェク番組を,記録メディアやブロードバンド(高速大容量)回線を用いて別の場所で視聴するといった用途も担保することにつながるだろう。 もちろん,ダビング10を円滑に運用するには,権利者への対価配分が適正に行われるシステムが必要なのは事実である。だが、肝心のテレビの視聴時間が減少している今日,視聴者の利便性に配慮する姿勢が権利者や事業者にも求められている。ダビング10は,まさにその求めに応じたソリューションといえよう。 なお,BSデジタル放送のWOWOWとスター・チャンネルHV,東経110度CS放送「e2 by スカパー!」の有料チャンネルは,従来どおりコピーワンスの運用が続く。ただし「e2 by スカパー!」では7月4日早朝から,「朝日ニュースター」などの3チャンネルがダビング10の運用に入ったことを,筆者も実際に確認したことを付け加えておきたい。
佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト 茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。
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