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【主張】WTO閣僚交渉 均衡とれた合意に総力を
7年に及ぶ世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が最終的な合意に至るかどうかの大きなヤマ場を迎えている。
週明けの21日から約1週間、WTO本部のあるジュネーブで非公式閣僚会合が予定され、大枠合意を目指すことになっているためだ。
日本からも、すでに若林正俊農林水産相、甘利明経済産業相が現地入りし、主要国との事前の2国間折衝を始めている。
今回、合意できなければ、ドーハ・ラウンドは当分の間、実質的に止まる。米政権の交代、まとめ役のWTO事務局長、欧州連合(EU)交渉代表の任期切れなどが控えているためでもある。
合意の可能性は、「五分五分」(甘利経産相)とされるが、ここへきて合意を目指す機運も高まってきているという。各国は、交渉の成否が世界経済に及ぼす影響の大きさを十分考慮し、大局的見地に立った決断をしてほしい。
失敗すれば、すでに先行き不安が強まっている世界経済に打撃を与え、さらには地球温暖化、原油高騰、食糧危機など同じように地球規模の多国間交渉の行方にも暗い影を落とすことになる。
今回は農産物と鉱工業品分野で具体的な数字が入った関税などの引き下げ方式(モダリティー)で合意し、サービス分野などで進展を見ることが大きな目標だ。
農業交渉で日本は、関税引き下げを抑制できる「重要品目」数を全農産物の「10%以上」と主張してきたが、議長案は「4〜6%」と厳しい。重要品目に漏れた農産物は関税の大幅削減が必至だ。
一方、鉱工業品では、日本は輸入関税が世界で最も低いが、欧米や途上国には高い国が多いため、関税削減は日本に有利になる。例えば米国はトラックの関税が現行25%から6・6%に、EUは家電が14%から5・5%に引き下げられる方向だ。日本の製造業の輸出競争力は大幅に高まる。
WTO交渉はこのように、産業により、国により利害に差が生じる。全体の利益を念頭に、可能なかぎりバランスのとれた合意を目指す以外にない。何を守り、何を譲り、何を攻めるか、政府は確固とした戦略・戦術と覚悟が求められている。
WTO交渉は世界経済全体のためであると同時に、個々の国益をかけた外交戦でもある。総力をあげて交渉に臨んでほしい。