「【佐藤優の地球を斬る】北方四島を守るのは「日露協調」」の記事詳細：イザ！

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　領土は国家の礎である。現在、わが国の２つの領土が不正常な状態に置かれている。韓国、ロシアによって、それぞれ不法占拠されている竹島、北方四島を何としても日本に取り戻さなくてはならない。領土問題を外務官僚に委ねていたら前進が期待できない状況で、民間側からの種々のイニシアチブが重要である。

　■生態系壊すカニ密漁

　北方領土について、大泰司紀之（おおたいし・のりゆき）・北大名誉教授と本間浩昭・毎日新聞記者が、共著『知床・北方四島　流氷が育む自然遺産』（岩波新書）において重要な提言を行っている。一部に、北方領土が日本に返還されても乱開発が進むだけだから現状のままでいいという意見があるが、２人は、〈返還されない方が自然は守られる、というような考え方が通用したのは、旧ソ連時代までの話です〉と、ロシアによって北方四島並びに周辺海域での環境破壊がいかにひどいかを事実に即して説明する。同書に記されたカニの密漁による環境破壊の事例を見てみよう。
　〈カニかごには、餌となる小魚を入れて海底に沈め、カニをおびき寄せて捕獲する。アリ地獄に似た落とし穴のような構造になっていて。一度入ってしまうと簡単には外に出られない／取り締まり船が接近してきたら、密漁者はカニかごをつなげているロープを切断し、逃亡を図るだろう／やがてかごの中で共食いが始まる。さらに死臭につられて他のカニが引き寄せられ、命を落としていく。カニかごは海底に沈んだまま永久にカニを死に追いやり続けるのだとグルゴリエフさん（ロシアの自然保護管）は顔を曇らせる。「幽霊漁業（ゴースト・フィッシング）」という名の永久機関だ〉
　とんでもない話だ。密漁者によって、日本の海が汚されているのだ。カニかごが北海道各地から漁業機材としてロシアに輸出されている。輸出には何の制約もないそうだ。日本政府として、輸出規制を行うべきと筆者は考える。

　■「知床の世界遺産を拡張」

　北方四島は、日本領であるのだから、現在、ロシアが行っている乱開発、環境破壊を看過してはならない。ロシア政府は、「クリル開発計画」にもとづいて、地熱発電、金鉱開発、空港・港湾・道路の整備などを進めようとしているが、その結果、北方四島の生態系が破壊される危険性がある。北方四島の生態系が破壊されることは、日本国家、日本国民に対する危害である。生態系の観点から、日本の領土を擁護することを真剣に考えなくてはならない。そこで大泰司、本間の両氏は大胆な提案をする。
　〈私たちは、この生態系の保全のために、新しい提案をしたいと考えています。それは、知床の世界自然遺産の範囲をウルップ島まで拡張するという提案です／拡張によって、日本とロシアが責任を分かち合い、生態系を保全するとともに、漁業を持続可能な形に変えていくことができるのではないか、と考えています〉

　■露の乱開発を止めろ

　知床は日本領である。ウルップ島の帰属について、日本の立場はやや複雑だ。１９５１年のサンフランシスコ平和条約２条ｃ項で日本が放棄した千島列島にウルップ島が含まれているので、日本領でないことは確かだ。しかし、ウルップ島がロシアに帰属するかというと、話はそう単純でない。ソ連はサンフランシスコ平和条約に署名していない。従って、ソ連の法的継承国であるロシアは、サンフランシスコ平和条約を根拠に「日本が放棄した千島列島がロシア領に所属するようになった」と主張することができないのである。しかし、最終的にウルップ島がロシアに帰属することを日本として異存があるわけではない。
　日本領の知床半島、ロシア領のウルップ島に挟まれた北方四島を、とりあえず帰属未定の地として、日露両国が共同で自然と環境を守るのである。北方四島海域では、日本の法的立場を害さずに日本の漁船が操業を行うことが可能になった。海でできることが陸でできないはずがない。両国の外交当局が知恵を出し合えば、きっと道は開かれると筆者は考える。
　ロシアは乱開発するとともに中国人、北朝鮮人の労働者を択捉島、国後島に送り込んでいるという。この状況をこのまま指をくわえてみていると、ロシアによる不法占拠が既成事実化されてしまう。こういうときは、現地に日本人を送り込み「日本とロシアのどちらが島の自然と環境について考え、汗を流しているか」という競争で問題を解決すべきだ。（外務省分析官＝休職中）

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